眠気と君とオレと枕

オレこと黒崎ゆうたの朝は早い。
窓から朝日が差し込むぐらいに意識を起こし、ベッドから体を這い出させる。隣に寝ている住人を起こさないように気をつけながら服を着替えいつもの学生服姿へとなる。二階にある寝室から物音を立てないように部屋を抜け出し、一階の洗面所で顔を洗って身なりを整えた後は洗濯を進めて、終われば朝食の準備に取り掛かる。
基本的に朝は軽めの方がいい。午前中から力仕事をするのならばまた別だけどここでそんなに力を必要とはしない。それに住人の好みや食べる量を考えるのなら少なめの方が良さそうだ。

「…よし」

料理を並べ終え、準備はできた。後はこの家に住む住人を起こしに行くだけ。
先ほどまで寝ていた部屋に戻り、締め切られたカーテンを開ける。差し込む日の光はいまだベッドで眠るこの家の主人の顔を照らし出した。
あどけない顔で依然として眠り続ける女の子。年齢的には同じくらいなのだがどうみてもオレよりも幼く見える童顔の少女。身長的には同じ程度なのだが印象からして同年代には思えない。
だけど、見た目がちょっと人間というには違ってる。いや、人間にない部分が彼女にはある。
まず頭。柔らかそうな髪の毛の間から生え出すのは朝日に照らされ黄金色にも見えなくない捻れた羊のような角。その下ちょうど耳があるところには白い毛に包まれた三角形の耳が覗いていた。

羊。

初めて彼女を見たときに頭に浮かんだその印象はずっと変わらない。
オレは枕元に座ってそこに寝ている子の頭を撫でた。サラサラで柔らかな綿のような髪の感触が心地いい。

「ほら、朝だよ」

オレの言葉に反応したのか安らかに閉じられていた瞼が開く。草原のような明るい緑色の瞳がオレを捉え、そのままにへらと柔らかな笑みを浮かべる。

「おはようございますぅ、ユウタさん」
「おはよ、セト」

これまた柔らかく、どこか眠気を誘う声色でセトはオレの名を呼んだ。寝起きであろうが起きていようがいつもと変わらない眠たげな表情が愛らしい。
彼女こそがオレを拾って助けてくれた恩人で、今現在も世話になっている女性だ。

「ユウタさぁん」

ねだるようにセトは両手を広げて笑みを浮かべた。まるで子供がだだをこねて求めるような仕草だ。

「…仕方ないな」

小さくため息をつきながら苦笑を浮かべオレは彼女の体を抱き上げる。柔らかな女の子の感触ともふもふした羊毛の柔らかさが腕に伝わってくる。日に当てた布団のような優しい香りも、温かい彼女の体温も。

「よっと」

ゆっくりとセトの上体を抱き起こす。まるで介護をしているみたいだと思えるが彼女は手足が不自由というわけではなく至って健康体。それでもこうして起こしてもらうのが好きなんだとか。
体を離そうとすると回された両腕によって阻害される。学ランの裾を強く握りこんだ彼女はオレに抱きついたままの姿で。

「すぴ〜…」
「…」

二度寝していた。
よく寝るんだよなこの娘。たぶん半日以上眠っているかもしれない。こうやって二度寝するのは初めてじゃないんだし。気づけばいつも眠そうで船こいでるし。

「ほら、起きろ〜セト〜」

抱きしめたまま軽く揺すってやるとセトはうっすらと目を開けた。いつものことながら一度で起きて欲しいものだ。抱きつかれることはまぁ…悪い気はしないけど。
揺らして体を離して、彼女の顔を覗き込むとゆっくりと瞼が開いた。

「ふみゅ?あ、おはようございますぅ、ユウタさん。もう朝ですかぁ?」
「さっき起きてたよね?」
「えへへ〜ユウタさんの抱き心地があまりにもいいものでぇ♪」
「…」

それは褒められてるんだよな…なら、悪い気はしない。
じゃなくて。

「ほら、朝ごはんできたから起きなよ」
「はぇ?もうそんな時間ですかぁ?」

日の上り方からしてもう九時あたりだろう。洗濯にそう時間を掛けたわけじゃないからオレ自身起きるのがいつもよりちょっと遅かったからか。

「はやくパジャマ脱いで降りてきなよ」
「はぁい」

セトが子供のように手をあげたのを見てオレは微笑み、部屋から出て行った。






「ごちそうさまでしたぁ」
「お粗末さま」

あのあとパジャマから着替え、二階から降りてきたセトを待って食事を始めた。互いに終わり、オレはセトの分まで食器を片付けようと手を伸ばした。だが指先に届くはずだった皿は彼女によって下げられる。

「だめですぅ」
「ん?」

見ればセトはちょっと怒ったような顔をしていた。普段眠たげな分迫力も何もあったもんじゃないけど。

「準備はいつもユウタさんがしてくれるんですからぁ片付けくらいは私がやりますぅ」
「いや、そう言われてもオレって居候でしょ。ただでさえ世話になってるっていうんだから。それに働かざる者食うべからずっていうし」
「そしたら私が食べられなくなっちゃ
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