伝える好意、紡ぐ本意

「…う、ぁぁ」

呻き声とともにうっすらと瞼を開くと目に入ってきたのは見慣れた天井だった。丸太を繋いだ、山中に建てられた別荘みたいな天井。それは最近のオレがよく見ている光景だった。
間違いなく、ここはあのエルフの家。
オレが世話になっていたあの家だ。
体に感じる柔らかい感触は紛れもないオレがいつも寝ていたベッドのもの。それに加えて伝わってくる不思議な温かさ。優しくて、包まれるような変わったそれがなんだかわからないがそれでもここは間違いなくオレが世話になっていた家だ。
おかしいな…あれだけの傷で、あれだけの出血で生きてるのだろうか。あんな何もないところでどうやって治療をして、ここまで運んだというんだ。
…いや、そういえばフォーリアがいたか。
意識を失った後どうなったかはわからないが、彼女が何かをしたとしか考えられない。エルフなんだから回復魔法とかそんなものを使えてもおかしくはないだろう。それに朝になっても帰らない彼女を心配してマレッサが皆で探してくれたのかもしれないし。
だけど、オレが隠していたことはバレてしまったに違いない。頑張って隠したつもりだけどオレがこうして生きている以上何があったかぐらいは知ってしまったはずだ。それに、血が滴っていたんだからバレない方が無理だろう。
…顔、合わせたくないな。
はぁっとため息を着いたその時、部屋のドアが開いた。

「ユウタ!」
「ん…マレッサ!」

その幼く可愛らしい声は聞き覚えがある、マレッサのもの。その声に反応して体を起こし彼女の方を向こうとするが思うように体が動かなかった。

「…?」

動こうとすればなんとか動く。だけどそれにしてはあまりにも体が重くなったように感じられる。まるで全身が鉛になってしまったかのようだ。
それでも動こうとするオレを見てマレッサが慌てて止めに来た。

「だめだよ!ユウタは五日も寝てたんだから!」
「…五日?」

そんなに意識がなかったのか。自覚はないがマレッサがそうだと言うのならそうなんだろう。出血多量だったのだからそれくらいなっても当然か。
むしろ五日で目を覚ましたことは良い方かもしれない。
マレッサは包帯や水の入ったコップが乗った盆を近くの机に置いてベッドに寝ているオレに飛びついてきた。ぐりぐりと、顔を押し付けて甘えるように抱きついてくる。
視界に入ってくる新芽のような鮮やかな髪の毛。それからエルフ特有の長い耳。だけど彼女は顔をあげようとはしなかった。

「…マレッサ?」
「……よかった…ユウタ、死んじゃうのかと思った」
「…」

きっとここに運び込まれたときオレは血まみれだったのかもしれない。既に治療のされた今の体は包帯が巻かれているだけでベッドに寝かされている。この包帯もマレッサやフォーリアが変えてくれたりしているんだろう。
それでも幼い子供には少々刺激が強すぎるかもしれない。


「でもどうしてユウタはそんな大怪我してるの?」
「薬草を一緒に取りに行ってる最中にさ、谷に落ちたんだよ。それで背中をぱっくり切っちゃって」
「…薬草?谷の?」

流石に幼い彼女にことの全てを話せる訳もなく少しばかり誤魔化す。だがオレの言葉にマレッサが首をかしげた。谷の薬草と聞いて何か怪訝そうな様子だ。

「そこってどんなところだった?」
「え?そりゃ…光る花がたくさん生えてるとこだったけど」
「?」

変わらず不思議そうな視線を送り、首をまたかしげる。

「それってもしかして…光る花に囲まれてる、透き通った花?」
「ああ、そうだよ」
「それ薬草じゃないよ」
「…んん?」

薬草じゃない?
おかしいな…エルフの族長であるフォーリアなら薬草かそうじゃないかなんて一目見てすぐにわかるだろうに。
それ以前にあんな大切そうな、幻想的な場所に一輪だけ生えてるんだからそれがなんなのか知っていて当然のはずだ。

「それ、ユウタと会った時に私が探してた花なんだよ」
「へぇ?」

初めて出会ったあの時、男どもに攫われていたあの時のことか。
気づけばもう随分と前のように思える初めての人外との出会い。あれがあったからこそマレッサに、そしてフォーリアに出会えた。あれが全ての始まりであって、そして今に至るのか…。

「それで、あの花は薬草じゃないって言うけど何なんなのさ?」
「あれはね、私たちエルフにとって大切な花なんだよ」
「エルフにとって?」

マレッサの言葉を聞き返す。
エルフにとって大切な花、ならそれが生えていたあの場所もエルフにとって大切な場所のはず。しかもその花をわざわざ見せるためにオレを連れて行ったのはフォーリアだ。
そりゃ、また…なんでだろうか。

「そう。一年に一回しか生えないし咲かないお花でね、あの花を取ってくることができたら私たちエルフは―」

「―それ以上はやめろ、マレッサ
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