体に不相応な大きい弓。それから少し長めの矢。彼女の体にはちょっともてあますくらい両方とも大きかった。
それだというのに幼い姿をしたエルフの女の子はそれらを傍らに置いてにっこり笑みを浮かべてオレの手を取る。
「ユウタ、一緒に行こ」
「…ん?どこへ?」
姉妹エルフの住む家においてもらって早数日。
矢の刺さった傷があらかた治ってきて歩き回るぐらいなら多少痛む程度にまで回復した今日この頃。
オレは泊めてもらっている部屋のベッドの上でマリッサを前に首をかしげた。
「お稽古。これから皆で弓矢のお稽古をするの」
「へぇ…弓矢か」
エルフだから魔法ドカンドカン撃ってるのかと思ったがどうやらオレの持ってるイメージとはだいぶ違うらしい。そういえばマレッサを助けた時に誤射された時だって弓矢だったんだから当たり前か。
「お姉ちゃんは見回りと薬草取りに行ってるからしばらく帰ってこないよ。ユウタもただジッとしてるだけじゃ暇でしょ?」
「…その気遣いは嬉しいよ」
こんな幼い子にそこまで気を回されているというのは嬉しい半面情けないとも思う。
だがここはエルフの住まう家。そして、エルフたちのための里の中。
人間であるオレが好き勝手すれば何をしでかすかわからない。ここはマレッサの好意を受け止めることがいいんだろう。
だけど。
「皆っていうと…その、エルフの皆のこと?」
「うん」
エルフの家で、エルフの里なのだから当然のことだ。
ここに人間はいない。オレを除いて誰一人いない。
そんな中にオレが出向いて言っていいのだろうか。以前、この家で初めて出会ったマレッサの姉にはとことん嫌われていたが、皆が皆あのような性格だったら流石にオレも凹む。
だがマレッサはそんなオレを見てにこりと笑った。
「大丈夫だよ。皆人間さんのことはあんまり良く思ってなくても、あんなに嫌ってるのはお姉ちゃんぐらいだもん」
「…へぇ」
それはそれでいいのだが…どうして彼女はオレをあれほど露骨に嫌い、蔑んでいるのだろうか。あそこまで刺々しい発言や見下した視線は常軌を逸している。
それが、エルフの本質か。
あれが、彼女の本心か。
オレには到底わからない。
「…なんであんなに嫌われてるんだろ」
「えっとね、たぶんお姉ちゃんが長だからだと思うの」
「…長?長って……何の?」
「この里の、長」
「…へぇ」
ということは、だ。
マレッサの姉であるあのエルフはこの村の、エルフの里の長であって、一番偉い女性だということだろうか。
へぇ、あのエルフが。
…あの女性が。
長というのだからもっと年老いてると思っていたのだがそうじゃないのか。それとも外見はあんなに若々しいけど本当はかなり長い年月を生きていたりするのかも。
エルフで長というのだからそれくらいあってもおかしくない。
長なんだから……。
「…え?長っ!?」
「うん」
ということはだ、人間と関わるか否かを決める権利は彼女が持っている。
あの女性が、あれほどまでに厳格なエルフが…。
…いや、長だからこそあそこまで厳しく振舞っているのかもしれない。
「でもお姉ちゃんは意地っ張りだから、本当は人間さんと仲良くしないといけないのにできないんだよ」
「ん…?仲良くしなきゃいけない?」
それはまた、なんで?
この世界に元からいたわけじゃないからその言葉の意味がわからない。こんな幼い子供でも理解できるような、重大なことがこの里に起きているのだろうか。
「よいしょっと」
マレッサは明らかに体格にあってない大きな弓と矢の入った筒を背負う。
見ているこっちがハラハラしそうな状態だ。それでも彼女は平然としてオレの手を掴む。
「持とうか?」
「平気だよ。それよりも早く皆のところに行こう。ユウタを皆に紹介しなきゃ」
「…気が進まないなぁ」
「大丈夫!ユウタなら皆と仲良くできるって」
笑みを見せつけそう言ったマレッサ。だが、次の瞬間切ない、寂しげな表情に変わった。
「どうかした?」
「…お姉ちゃんとも仲良くできるといいのにね」
その言葉は子供っぽくて、純粋で、単純なものだった。
だけど何より大切で、重要なことだった。
お姉さんのように堅物で物事をよく考えるのと、マレッサのように思ったままに行動する。
大人と子供でまるで違うが、マレッサの考えはオレにとっても、あのエルフにとっても大切なことだろう。
「…そうだね」
オレはぽんとマレッサの頭を撫でて、そのまま共に部屋を出て行った。
外に出ると頬を撫でる風がやけに冷たく思わず身震いをしてしまう。やはり季節は秋か冬らしいのだが、どういうことかマレッサの格好は姉同様に葉で作ったような衣装を着ているのみだ。
子供は風の子…というわけもないか。姉の彼女も同じ服なんだし。
エルフというのは体温
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