契約者のいない私は普段一人で眠っている。
太陽の光が届かない洞窟の奥深く、コケや草を集めて作ったふかふかのベッドの上で静かに眠っている。起きる時間は決まってない。日の光のないここでは時間も正確には測れないのだし。
だからといって真っ暗闇ということもない。光のない空間でも周りには私の魔力を吸って光に変える魔灯花が植えられており、壁に散りばめた様々な宝石や水晶によって反射して洞窟内を照らしてくれる。
精霊である私にとって光なんて、宝石なんて、とくに必要もないのだけど。
「…」
ゆっくりと体を起こして私はベッドから抜け出した。眠い目を人間よりも大きめな手で擦りながらあくびをする。
体を得て、魔精霊へとなって様々なものに触れられるようになってから契約者、特に男性の契約者が欲しくなった。
だけどここは辺境の地。
あるのは広大で草に覆われた草原と深い森。せいぜい旅人ぐらいしか訪れないような場所。
以前男性が訪れたことがあったがその時は私はまだ純精霊で触れることもできなかったし、何より彼の隣には魔物の姿があった。
好ましいと思っていた。
それが今の体では望ましいと思っている。
私にもあのような男性が欲しいと、求めている。
「…ふぁ」
このまま眠り続けるのもいいが私にはやらないといけないことがある。
少しばかりの楽しみで、ちょっとばかりの趣味。
洞窟からちょっと歩いて私はそこに着いた。
広大な地に草の生えていない空間。大きく開かれたそこは土を掘り返して耕された畑となっていた。並んで生えてる緑色の野菜。端の方に生えた気には果実が沢山実っている。
―私は畑を耕して作物を作り、時には果物を育てていた。
精霊である私が必要のない食物を作るなんて滑稽だけど、それでもこれがまた面白い。
以前から体を持ったらしてみたいと思っていたこと。
幸いなことに私は土の精霊のノーム。
大地を耕すことも作物に実りを与えるのも自在にできる。
小さく力のなかった私でもこの体になれば触れることもできるし、純精霊だった頃よりも力がある。男性を求めて止まないのは仕方ないけどこうして自分の好きなことができるのは嬉しかった。
「…ん?」
いつも見ている風景。
いつも世話している作物。
いつもどおりの畑の様子。
だけどそこに一つの違和感があった。
「…?」
私はそこへと足を進める。並んだ野菜のうち一つ、緑色の葉に隠れるように生えていたそれへ。
目の前に立って私は首をかしげた。
「何、これ…?」
それは野菜とは言い難いものだった。果物とも思えないものだった。
こんな作物見たことがない。色も形も、こんなものは今までに作ったことがない。
まるで夜の闇を切り裂いて纏わせたかのようなそれ。葉の形をしていないそれは硬質な布のように見える。それから、二股に分かれた先端。先には靴らしきものがついていた。
「…人?」
野菜じゃない。
果物でもない。
これは人間の下半身だ。まるで逆立ちしたまま土の中に埋まってしまったような。
何で私の畑に紛れて生えているのだろうか。
こんな辺境な地に来て畑に埋まるなんて、どんな人間なのだろうか。
「…抜かないと」
土の中に顔が埋まっているのでは呼吸ができずに死んでしまう。早急にこの人を助けないと。
私は二本の足を掴み、そのままゆっくりと引き抜いた。多少土で汚れてしまったが同じ色の上着とだらりと垂れた両手。それからここらでは見ない黒い髪の毛。
そのまま畑の上へ、野菜を潰さないようにそっと寝かせる。
目は閉じて意識はないみたいだけど、死んではなさそう。どうやらそう長い時間土の中にいたわけじゃないらしい。
「…ぁ」
改めてその人間を見る。
女性にしては高いが、男性にしてはちょうどいいぐらいの身長。平凡そうだけど優しそうな顔立ち。胸には女性の特徴である膨らみはない。いや、服が服だから見えないのかもしれない。
だけど、私の、魔力の混じった本能は告げていた。
「男の、人…♪」
ずっと待っていた存在。
純精霊の頃から求めていた契約者になりうる存在。
魔精霊となって欲しくなった、愛すべき人間。
もっと彼の見たくてついてた土を拭い落とす。私は土の精霊だからちょっと払ってあげるだけで肌や服についていた土や泥が水で落としたように綺麗になった。
見たことのない形をした黒い靴。
黒くて硬質な布。
短めに切られた黒い髪の毛。
下から上まで黒一色の彼を見ていると胸がドキドキした。
「あ…そうだ…」
体を倒して彼の胸に顔をうずめてみた。布越しだけどちゃんと伝わってく一定リズムで刻まれる命の鼓動。それから優しい温かさ。服でよくわからないが鍛えられた筋肉に覆われているらしい固めの体。
でも、抱きしめやすくって、とても心地いい。
彼に抱きついたまま寝たらどれほど
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