「一目見た時からずっと好きでした!おれと付き合ってください!」
「…は?」
いつもの日常。
いつもの教室。
いつもの休み時間。
そんな中で机に座っていた女子の前で一人の男子が皆に聞こえるような大声でそう言った。
茶色の長髪が窓から入ってくる風に揺れ、一筋メッシュのように入った白髪が妖しく揺れる。大きな胸に長い手足、モデルをやっていてもおかしくない美貌を持った彼女。凛々しい雰囲気はただの女子に出せるようなものではない、ゆえに彼女の纏う雰囲気は独特であって魅力となっていた。
意志の強そうな瞳が彼の姿を捉える。
「何?」
「おれと、付き合ってください!」
彼女はまたかと小さく呟いて席から立ち上がった。それと同時にスカートがひらめく。
彼女はそんなの気にすることなく疲れたように言った。
「あのなー…俺には彼氏がいるって言ったろーが」
女子らしからぬ言葉遣い。むしろ男としか言えない荒い口調。
それでもそんなことが気にならないくらいに彼女は綺麗だった。こうして、人がまだ沢山いる教室内で告白を受けるくらいに。
「パスだ」
「そ、そんな…何でっ!?」
「だから男がいるんだって言ってるだろーが」
その言葉を何度彼女は口にしたのだろうか。今週に入ってもう数十回にまで届いてるかもしれない。それほど彼女は告白されて、されるたびに断っている。
以前もこうして目の前で振られた男子がいたがどうして皆振られることが分かっていても告白してくるのだろう。
彼女がそれだけ魅力的ということか。
「わかってます!わかって言っているんです!」
それでもなお食いつく男子。
その心意気は素晴らしいものだが彼氏持ちの女子に告白するというのはいただけない。
「わかってるのに何で告白するのかわかんねーよ」
「それでもいいんです!」
「俺がよくねーよ」
「なら、その彼氏と分かれてください!」
「わけわかんねーよ」
呆れたように溜息をついた彼女。しかし目の前の男子はそれでも食い下がろうとはしない。
それどころか興奮してか怒鳴るように声を荒げた。
「なんでですか!おれの方があんな男より―」
その言葉を言い切る前に一瞬、彼の胸を何かが凪いだ。
遅れてからんと軽く乾いた音が虚しく響く。その音のした方へと目を向けるとそこにあったのは金色の塊。
あまりにも早く、目で追うことのできなかったそれは彼の着ていた学ランの一部、ちょうど心臓部のある第二ボタンだけを器用に飛ばしていた。
あまりにも鋭い一撃。
あまりにも早い剣撃。
普通ならば反応どころか剣筋さえも目で追うことのできないほど。
「…え?」
遅れて男子が反応した。そして、理解する。
先ほど振るわれた木刀が誰によるものなのか、一体何でボタンが飛んだのか。
どうして目の前の美女が睨んでいるのか。
なんで彼女は木刀を喉元につきつけているのか。
「いくら俺でも彼氏を悪く言われて許せるわけねーだろ」
剣呑に細められた目。瞳に宿る静かな怒り。美女には全く似合わないもの。
固まる男子を目の前に彼女は前の席にうつ伏せでじっと傍観していた男子―オレの首に腕を回して抱き起こした。
「うぐっ!」
「誰がなんと言おうとこいつが俺の男だ。今度馬鹿にしたよーなこと言ったらただじゃおかねーからな?」
鋭い視線。
鬼のような気迫。
女になろうとも一流の武人であることに変わりない京極は男子の首に木刀を当ててそう言った。
返事を聞く前に木刀を引き、オレの襟首を掴んで引きずって教室を出る。そのとき後ろから刺さるような視線と見惚れた男子たちの顔が見えた気がした。
「…あーあ、またかよ」
「仕方ねーだろ、こうでもしないとしつこくつきまとってくるんだからよー」
教室から出て、京極に襟首を掴まれたままでオレはため息をついた。
あの日からさらに魅力的になったオレを引きずる女性。
胸は始めの頃以上に大きくなって、肌や髪の艶は増し、ますます綺麗になった。言動は変わらずとも女らしさに磨きがかかって女でも目を奪われ、男だったら誰もが放っておけない美女となった。
だがそれ以上に京極が告白される原因となったのはもう一つ。
―それは彼女が女物の制服を着たこと。
あの時、女になってしまった始めの方ならば絶対に着ることのなかったセーラー服を京極は今目の前で纏っている。
女子が女子用の制服を着ることなんて当たり前のことでありとくに気にするようなことじゃない。だが京極の場合は違った。
もともとが美女。
モデルとしてもやっていけそうな女性。
さらにはただ綺麗だとか美人だというだけではない、武人としての凛とした雰囲気を纏っている。
それが普通の女子よりもずっと目立ち、誰よりも魅力的に映ってしまう。セーラー服なんてきたからなおのことだ。
それがオレの親友で
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