「なぁ…黒崎…」
「んぅ?」
京極の家のパソコンで調べ始めて既に二週間、何の手がかりも得ることができずに無駄な時間だけが過ぎていく。そんな中のある日の夜京極はオレに声をかけてきた。
蒼色のタンクトップにこれまた短いトランクス姿。初めて目にした時よりもさらに露出を増やしているのは見せたいというよりも恥じらいをなくして男心を失わないようにしているのかもしれない。黒くて長く伸びた髪の毛から異様で、人目を惹きつける白髪も残っている。
そんな姿で京極は言った。
普段とは違う、高い声で。
いつもとは違う、沈んだ声で。
「…俺…戻れるのか…?」
「…」
その言葉に答えられるほど今の状況は良くない。
京極を女へと変えた白髪の女性の情報は何も手に入らない。
最悪手術して体を戻すと考えてもみたが…それをよしとできるワケでもないだろう。女性の体だったという事実が残る以上、京極の精神的にも一生消えない傷となる。
これだけの時間、これだけ視野を広げて情報収集に勤しんだというのに手がかりはゼロ。
逆に長い時間が京極の精神を潰してきているんだろう。
なら、オレが弱気になってはいけない。ここでこいつを弱気にさせてはいけない。
「何?女になりたくなった?」
あくまで冗談らしく、いつものように。不自然な優しさはいらない。オレと京極の仲にそんなものなんてものはないのだから。
だが京極はオレの言葉に何も答えなかった。ため息一つも付きやしない。
…あ、やべ。
流石の京極も今はこのセリフに返せないほど来ていたか。
そりゃ男の精神に女の体。合うはずがない器と中身じゃ限界というものがある。
「不安になるなよ。時間に限りがあるわけじゃないんだ、探してれば見つかるって」
「…ほんとーにか?」
「情報社会なんだから、少しは信用したら?」
「そんなもん信じねーよ。…お前を、信じていいのか?」
「…」
これまた重い言葉が来た。
気軽に答えてはいけない質問が来た。
この世の中、目立つような格好した女一人の情報なんてすぐさま入ってくる。今はまだだけどそれも時間の問題だろう。
だから信用も何も、ただ待ってればいいだけ。信じる意味もなくただ待ち焦がれていればいいだけ。時間制限もないのだから落ち着いていればいい。それだけなのに。
京極の言葉はそういうことじゃない。
オレがあの女の情報を得ることができるのか。
オレが京極を元に戻すことができるのか。
京極は、男に戻れるのか。
それこそ彼が聞いたことであり、期待していることであり、信じたいこと。
「…」
軽々しく答えられることじゃない。
嘘っぱちで補えるものではない。
京極の心情がわからないオレが言えるものでもない。
それでも…。
オレは椅子の向きを変えて京極の方を向いて言った。
「……もしものときは…責任でもなんでもとってやるよ」
男に向かって言える言葉じゃないだろう。
それでも何も言わないよりかはマシだ。
ここで黙っていることよりもずっとマシだ。
これ以上京極を不安にさせてはいけない。ただでさえ今はもう心が砕けそうだというんだ、さらに不安にさせればいつ心が折れるかわかったもんじゃない。
だから言える言葉はせいぜいこのぐらい。
オレにとっての精一杯のカッコつけだ。
「…はんっ、カッコつけてんじゃねーよ…バーカ…」
そう言いつつも京極の口元は確かに緩んでいた。
先ほどの沈んだ顔よりかはずっとマシになっていた。
それを見てひと安心する。
まだ、平気そうだ。まだ、大丈夫そうだ。
限界に近かったとしてもまだそこまでは達していない。
正直こんな精神状態でもうダメかと思っていたけどそうでもなさそうだ。流石あのお爺さんの孫であり、弟子なんだから。
目の前にいるのは誰もが目を奪われる程の美女であり、そんな彼女が綻んだだけでもとても魅力的。そんな顔を見せてくれるだけでも嬉しくなるのだが、その嬉しさは美女に笑みを魅せられたからだけではなく彼女が京極で、オレの大切な友人であることなのだろう。
「全然平気そうじゃん」
「それを言ったらお前はどーなんだよ。目の下にクマできてるぞ。お前…寝てねーのか?」
「あ?あぁ…まぁ」
実はこの二週間ほとんど寝ていない。
朝には学校へ行かなければいけないし、京極の家に訪れては情報が入っていないかを探している。家に帰れば家事があって、そのあとの時間は自宅にあるパソコンを使ってまた情報収集。限界ギリギリまで粘って泥のように眠っているから睡眠時間はギリギリまで削っていた。…授業中ちょっと寝てるけどそれでも体の不調は隠せないか。
だがそれを言うなら京極のほうもだ。あれからこんな精神状態でまともに寝れてないはずなのに顔色は優れている。疲れている様子がないし、クマも出来てなければ肌だって潤いを保ったまま、不調のふの字
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