「…ん?」
朝の支度を終え、さてこれから学校だとカバンを背負って自転車の鍵を手にしたとき、ポケットに入っていた携帯電話が震えた。
画面を見てみると表示されてるのは京極からの着信。
基本的にメールで話してくるあいつにしては珍しい。
「…はい?どうかした?」
「おぉ、黒崎君」
「…京極のお爺さんですか?」
これは…また…予想外な相手が電話をかけてきたもんだ。これ孫の携帯なのに勝手に使っていいのだろうか。って、そうじゃない。
「で、どうかしましたか?」
「ああ、時に黒崎君。君は巨乳な女性は好みだろうか」
「…まぁ、好きですけど」
「そうか好きか!それは良かった」
「…」
…どうして朝っぱらから巨乳が好きかどうか聞かれてるんだろう。
っていうかこの人あれだ、結構な『あれ』だ。
オレが知っている中で一番『あれ』なのは師匠ぐらいだと思ってたけど…まさか師匠以外にもいたとは…。
「……えっと、それでどうして電話をしてきたんですか?」
「おお、そうじゃ。忘れるとこだった。実は孫のことでのぅ。いや、今は孫娘か、ふぉっふぉっふぉ」
「…」
…笑えないだろ、それ。
自分の孫がいきなり女になったらお爺さんとして笑えないだろ、普通。
「で、京極…じゃなかった、怜君がどうかしたんですか?」
「ああ。あやつを学校に行かせようと思ってな」
「…え?学校に?」
…いやいやいや。あの姿で学校に行けるもんじゃないだろ。
以前は男だった奴がいきなり女だなんて勝手が変わるし、それに席がない。京極男ならあっても京極女じゃ周りの反応さえまったく変わる。
さらに言うならあいつ、なんでか美女だった。
あんな風貌でお年頃の男が沢山いる高校に行けば放っておく奴はいないというのに。
「黒崎君はきっと反対じゃろうがわワシらにとって怜はたったひとりの一人孫なんじゃ。甘やかしたいのもあるが立派な大人にもなってもらいたい」
「…」
「じゃから、頼む。あやつの傍に居て―」
「爺っ!テメー人の携帯で何やってんだ!」
電話の向こうからものすごい声が聞こえてきた。甲高い声はいったい誰のものなのかと考えてしまうが数秒して気づく。
そうだ、これ京極の声だ。
いつもはもっと低いし荒い声だというのにこれでは声だけで判断するは難しくなっている。
少しの物音とともに声がお爺さんのものからその女性に変わった。
「黒崎か!んなもんいらねーからな!一人で学校でもなんでも行くつもりだからな!」
「一人って…京極それで大丈夫か?」
「当たり前だろーが!つーか来るな!絶対に家に来る―おごっ!」
電話の向こうから変な声が聞こえた。女性が上げていい声じゃないものが。
同時に乾いた軽い、でも本人にとってはかなり重い一撃の音。それに続くのは痛みに耐える女のうめき声。
「あがぁ…爺…テメー…」
「ああすまんのう黒崎君。怜はちょいと照れておるだけじゃ。あれじゃよ、いわゆる『つんでれ』とでもいうやつじゃ」
「…」
お爺さん、京極を木刀かなんかで殴ったな。あの人一応師範代であいつの師だし。
「そういうわけで頼む。怜の隣にいてくれるかのう」
そこまでお願いされてはこちらも断れないというもの。しかも頼んできた相手がずっと年上で友人のお爺さんというのだから。
だけど、もとよりこちらもそのつもり。
学校へ行かすのは問題があるとしてもあいつの傍ぐらいにはいるつもりだ。
「分かりました」
「おぉ!頼まれてくれるのか」
「ええ、頑張らせていただきます」
オレの声に電話越しでお爺さんは嬉しそうにそうかそうかと繰り返す。向こうではきっと自慢の顎鬚をなでていることに違いない。
「ではワシの家前まで来てくれるかのう。怜をそこで待たしておこう。学校からはワシが言っておくからこやつのことを頼んだぞ、黒崎君」
「はい、分かりました」
「曾孫のことも頼んだぞ」
「わかりまし…え?」
…曾孫?お爺さんにそんな子供がいたっけ?孫に当たる京極には子供なんて当然いないのに。
…まさかこのお爺さん。
「勉学も大事だがそれ以上に大事なことは沢山あるあるから積極的に励むのじゃぞ?」
「いや…お爺さん?」
「女子高校生も巨乳も好きな黒崎君ならやってくれると信じとるぞ。ワシはワシで婆さんがいるからのう。どれ、これから一発かましてくるとしようかの!」
「…」
「では黒崎君、怜のことを頼んだぞ。何、昼飯に精力剤と媚薬を持たせてあるから励めよ若人共」
「お、おいクソ爺!テメ―げふっ!!」
「…」
「ふぉっふぉっふぉ」
そのまま向こうの音が途切れる。つーつーと聞こえてくる音がやたらと虚しい。
…あのお爺さん、只者じゃないな。
あそこまで常識外してるというか、抜けているというか、超人的というか。間違いなくあの人、オレの師匠と同じタイプだ。流石にあれ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6 7]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録