「…こんなところか」
私は手にした宝石や金や銀、ミスリルや装飾のあるブローチなどの類を眺めてそう呟いた。
どれもくすんでしまってはいるが一級品であることはまちがいなく、装飾など何もかもが申し分ないほど上等な宝。
よくもまぁこれほどまでのものがこの古城に残っていたものだ。
もしかしたらこのお宝全て盗賊が隠し持っていたものかもしれない。
だからといって私は収集することをやめはしないが。
いくつも無造作に散らばる宝の中から一つの小箱を拾い上げた。
特に装飾のされていないものだが高級そうな雰囲気は隠しきれない、小さな小箱。
中を見ればそこにあるのは黒く丸い宝石を使った指輪が一つ。きっとこれは黒真珠だろう。
「…黒、か」
その色を見て住処である洞窟にいるであろう一人の人間を思い浮かべた。
今頃私の帰りを待って夕食でも作っているか、それとも私のコレクションを磨いているかもしれない。
そうだ、これらもくすんでいるんだ、あの人間に磨かせよう。
なんだかんだであれがする仕事は細かく、確かなのだしこの宝石たちもさらに輝かせるに違いない。そう思って私は手にした小箱を麻袋に突っ込んだ。
もうここには用はないのだ、あとは帰ってこの宝でも眺めることにしよう。
麻袋いっぱいに宝を詰め込んだ私は途中で破れないように魔法をかけ、翼を広げて古城から飛び立った。
厳重に迎撃魔法をかけた入口をくぐり抜け、そのまま数分歩くと広い場所に出た。
そこからいくつかドアが見える。ここには様々な部屋が有り、もともとは王族が隠れるために作っていたらしい場所だ。おかげでそれなりの広さもあるし、生活に必要最低限のものは揃っている。
なんとも住み心地のいい場所だ。
そしてここに住んでいるのは私だが、私だけというわけでもない。
「あ、お帰り、主人」
そう言ったのは両手で金塊や宝石を抱えるだけ抱え込んで、食欲を刺激する美味そうな香りを漂わせて笑みを浮かべる人間だった。
本来なら泥棒かとも思え業火の一つでも見舞うところだがこの人間は違う。
抱え込まれた金塊はどれも汚れ一つなく、その手には乾いた布が握られている。
浮かべた笑は温かく私を出迎えるためのもの。
乾いた布は金塊や宝石を拭いていたもの。
漂ってくるこの香りは先程まで料理をしていたからだろう。
そのどれもが、私のために。
「うわー…また随分と持ってきたことで」
私の持った麻袋の膨らみを見て人間は感嘆のような、それでいて呆れているような声を漏らした。
純粋な子供のように目を輝かせては私を見て、吐く言葉は相手が目上で格上である存在だと思わせない、ただの人間相手に話しかけるような言葉で、人間はいつも笑みを浮かべている。
それが、目の前にいるこの存在。
この人間はわかってない。
―目の前にいる私がどれほど恐ろしいかを。
この人間は知らない。
―こうして言葉を交わす私がどれほど高位な魔物なのかを。
―黒崎ユウタと名乗ったこの人間は理解できていない。
―私が、ドラゴンであるということを。
この人間がここに現れたのはもうちょうどひと月前になるだろうか。
見つけた場所はここ、私の居住であるここの一室。宝石を、金塊をしまっておく為に使っている部屋の中でだった。金貨を無造作に積み上げ、宝石を散らし、適当に金塊を転がしたその部屋の中。
金貨の山の中から二本の足が生えていた。
入口には厳重な迎撃魔法を何十にも重ねてかけている。
この部屋にも鍵の代わりに施錠魔法をかけているし、無理やり侵入しようものなら私が気づく。
それなのに気づかずにこの人間はどこからか現れた。入口の魔法も何一つ迎撃した跡も解除された形跡もないというのに。
このままにしておくのも仕方ないので私はその足を一本掴み引き上げた。
「…なんだこいつは」
引き上げたのは一人の人間。
上質な布を用いて作った黒いズボンと同じ色の上着、しかも上着には金色のボタンがいくつもついている。見たことはないが高価なものであることに違いないだろう。
だが逆にそれを着た人間の顔は平凡そのもの。
顔立ちはこの大陸では珍しく、髪の毛もまた同じようにこの大陸ではまず見られない黒色ではあるが瞼を閉じた顔には特にこれといった特徴がないし、歴戦の戦士のような気迫もない。
単に気絶しているからというのもあるだろうがそれでも着込んだ体はそれほど筋肉がついているようにも見えない細いものだった。
こんな体でどうやって入ってきた?
それもかなり厳重に罠や魔法を仕掛けているというのに。
人間から魔力は一切感じられない。
そんなのでは魔法を解除することもすり抜けることもできないというのに。
まるで、この場所に突然現れたとでもいうような…。
…そんなことがありえるのか?
私は人間を見た。特徴
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