「…ぁ」
小さいうめき声とともに瞼を開けるとそこに広がったのはオレのよく知る天井だった。
明かりが少なく薄暗い室内で光の点らない蛍光灯が無機質な白い天井に張り付いている。
少し首を動かして周りを確認すると清潔感溢れる白いカーテンが目に入った。
すでに見慣れた光景。
ここはオレがよく通い、入院する病院の一室だ。
何でこんなところいるんだっけ…。
目覚めたばかり、覚醒しない意識ではあやふやな答えしか出すことができない。
何があったか、思い出せない。
どうしてここに?
何で病院のベッドで寝ている?
こんなこと…よくあったはずなのに…。
そこまで考えてようやく頭が覚醒した。
「…っ!!」
一気に起き上がろうとしたら体中に嫌な痛みが走った。
まるで釘をねじ込まれるような、そんな感じ。
忘れるなと言わんばかりのあの事実の証拠が抗議したかのように思えた。
「つぅ…っ」
息を吸って吐いて、吸ってもう一度吐く。
何とか痛みを遠のけるために安静を保つとがらりと病室のドアが開いた。
「起きたんだ」
そっけなく、あっけなく、そんな調子でそう言ったのはオレのたった一人の双子の姉だった。
ドア横にあるライトのスイッチを押そうともせず近くにあったパイプ椅子を引きずってオレの傍に座る。
照らすものがないこの部屋の中で唯一の光源は窓から入ってくる月明かりのみ。
そんな淡い光に照らされたあやかの顔は特にこれといった表情を浮かべていなかった。
「…あやか」
「…ふん」
心配するわけでも怒鳴り散らすわけでも、ましてや泣き出すわけでもなくあやかはただオレを見ている。
呆れている、とでも言おうか。
そりゃここまでの傷を負うことをわかってやってたんだ、呆れられてもしょうがない。
「…どのくらい寝てた?」
「運び込まれてからもう一日経ってる」
「…」
どうやらあのまま一日気を失っていたらしい。
随分長い眠りだったな。
いや、むしろ一日程度で済んだというところだろう。
体がこのような状態ではしょうがない、か。
痛みの走る体を捩ってあやかの方に向いた。
あやかは変わらずオレを見ている。
まるで見透かすように、オレの行動を先読みするかのように。
オレを逃がさないように。
「…」
しかし今のオレにすべきことはある。
しなきゃいけないことが一つだけある。
傷を癒して体を休めるよりもずっと先にしなきゃいけないことが。
何も言わない重苦しい沈黙の中でオレは耐えかねたように口を開いた。
「……ちょっとトイレ」
もちろんその言葉は嘘偽りのものではない。
いくら骨が折れていようと動けないわけではない。
絶対安静と言われても安静にしていることが最善であって、動き回ることは最悪なのではない。
だからちょっと出かけてくるだけ。
遠く外にあるトイレまで出ていくだけだ。
ついでにある女性の様子を見てくるだけ。
しかしそんなオレの考えは今までずっと一緒に生きてきた片割れにはいともたやすく見破られる。
何も言わないあやかだったが行動には出ていた。
ずだんっと、体がベッドに叩きつけられる。
「っ!!」
手首を掴まれ、肩に手を添えられて、どこをどうやったのかわからず起き上がろうとしたオレを軽やかに叩き伏せた。
刹那、反動が帰ってくる。
いかに柔らかなベッドの上といえ人一人の体重を受け止めた分の力は戻ってきて、オレの脇腹へ響いてきた。
痛い。
すごく痛い。
悲鳴ひとつ、言葉一言もでてきやしないほど、呼吸も止まる激しい痛みにオレは苦しんだ。
「な、ぁ…な、に…するんだよ…っ」
「何しようとしてるのさ、この馬鹿」
そういうあやかは冷たい目をしていた。
見下すように、蔑むように、普段見せている面倒くさがっているあの目ではなく、どこか冷やかながらも怒気を孕んだものだ。
呆れているのかもしれない。
呆れ果てて、怒る気にもなれないのかもしれない。
「肋骨何本折れてると思ってるの?そんなんで動き回れるはずがないでしょうが」
「別に…これくらい、以前よりかはましだろ…」
「ましだとしても動けるわけじゃないって言ってるの」
その言葉とともにあやかはオレの胸に手を置いてきた。
力を籠めない、ただ文字通り重さだけを伝えるようにして置かれた手。
だが、ただそれだけでも体は嫌な痛みを伝えてきた。
これで力を込められたらどれほどの激痛に苦しむだろうか。
よくもまぁこんな状態でオレは師匠に対峙していたと感心してしまうほど。
…うん?
そこまで考えて気が付いた。
―オレはどうやってここまで来たんだ?
確かあの時オレは倒れた筈だ。
よく思い出せばあの時オレは倒れたままで師匠を見てた。
そして気を失ったはずだ。
それなのに、どうしてここにいるんだ?
あのまま張って来たとでも?
師匠が正気に戻って救急車で連絡したとでも?
それはま
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