淡い月明かりに照らし出されたそれはまるで宝石の一粒のように輝いては赤く輝くウロコの上で弾ける。
ぽたぽたと、何度もそれは降り注ぐもとどまる気配を見せない。
まるで雨が降っているかのようだけど、今は月が見えてるし雨雲なんて欠片もない。
これは雨粒じゃない。
涙だ。
あたしが流してる、止められない涙。
「うっ…ふ、くぅ…っ」
嗚咽を交えながらいくつもの涙がこぼれ落ち、弾ける。
何度も拭っているのにとめどなく溢れ出してはぽたぽた落ちる。
泣きたくない。
泣きたくない、のに…。
それでも涙は止まってくれない。
「ふ…ん………ぅっ」
小さい呻き声が唇の間から漏れ出し、誰もいない砂浜で波の音にかき消された。
そう、ここは砂浜。
初めてユウタと出会い、ユウタに口づけをした場所。
本当なら来たいとは思わなかったはずなのに。
それでも今はここくらいしか思い浮かばなかった。
あの二人から一番遠く、誰もいない場所。
ただ一人で存分に泣けるような場所はここだけ。
だから誰もここには来ない。
物珍しそうに見る人も、慰めに来る人も、誰もいない。
ユウタも、来ない。
「…」
当然だ、来るはずがない。
ユウタはあたしの恋人とはいえるわけじゃない、親しい間柄であるだけの人間。
普通の一般人。
どこにでもいる、独り身の青年。
あたしにとってはただ仲がいいだけの猥談友達。
ただ、それだけ。
だというのにあたしの胸は掻き毟られる。
先ほどの光景が脳裏に思い出される。
ユウタが優しそうに笑みを浮かべ、眠ってしまったセリーヌを撫でてていた光景が。
片方の意識はなかったとしても二人寄り添った姿はあたしが夢見ていたもの。
一人の人魚と一人の男のカップル。
だけど違うのはユウタの隣にいるのがあたしじゃないということ。
ずっと欲しかった場所にいるのはあたしじゃ敵わないほど綺麗で女の子らしいシー・ビショップ。
逆立ちしようと勝てない理想の女性。
彼の隣にふさわしい人魚。
「……っ」
再び溢れ流れ出す数多の雫。
拭う気もさらさら失せた。
このまま泣き続けるとずっと泣くことしかできなくなりそう…そんな恐怖と、せめて少しは気を紛らわせたいと思ったあたしは砂浜から離れることにする。
涙を流そうと座っていた砂浜から海へ飛び込もうと腰をあげたその時だった。
「やっと…見つけた」
聞き覚えのある低くも通る声。
遮るものが何もない、波の音しかしない闇夜の砂浜にはその声だけがよく響いた。
「…っ!」
「まったく。一体どうしたんだよ、エレーヌ」
その声にあたしの体はすぐさま反応する。
ユウタから逃げ出すため砂浜から弾け出すように海へと飛び出した。
「あっ!おい待てって!!」
しかし、それ以上に早くユウタが反応してしまう。
あたしが飛び込むよりも先にあたしの腕を掴み取った。
「っ!」
「ほ、ら、よっ!」
男女の力の差は大きい。
それ以上に陸でのメロウ、丘での人間ではあまりにも差が出すぎる。
結果されるがままあたしの体はユウタに引き寄せられた。
「とっとっと、ぉわっ!」
しかし力余ってか力をいれるとすぐに崩れる砂の上だからか、バランスを崩して倒れ込んだ。
ユウタは砂の上に、あたしは、ユウタの上に。
縮まった距離。埋められた隙間。
以前のあたしなら嬉々として近づいていたはずなのに今は近づきたくなかった。
それでも陸にいるから自由に動けない以上仕方ない。
「たたた…まったく、何逃げようとしてんだよ」
「…離してよ」
「離せるかよ。エレーヌ、海に潜ったら追いつけないんだからよ」
「だから、離してよ」
「嫌だ」
「離しなさいよ」
「断る」
そう言いながらもユウタはあたしの背へ腕を回して逃がすまいと強く抱きしめる。
肌から伝わる硬い生地の感触、それを越して感じる硬い筋肉のついた体。
それをどれほど求めていたことか。
どれほど欲してやまなかったことか。
それなのに。
今はその暖かさが恨めしかった。
その優しさが、嫌だった。
「…どうやって…来たのよ…」
回された腕は固く、あたしの体が離れるのを許さない。
仕方なく今はこの状況から逃げ出すために口を開いた。
ユウタはあたしの言葉に得意げに笑みを浮かべる。
「あのテラス、この町を一望できるからここの水路全部見えるんだよ」
それは知ってる。
この港町を知ってもらいたかったからわざわざあの部屋を取ったんだから。
朝は水路が輝き、町全てがきらめく姿は思わずため息を漏らしてしまうほど美しい。
逆に夜は優しい月明かりを反射して輝く建物は幻想的で見蕩れてしまうほど素敵。
―それを好きな男性と一緒に眺めるのがあたしの夢の一つだったんだから…。
「真夜中の水路なんて泳いでるやつ全然いなかっただろ?目立ってたぞ、エレーヌの泳ぐ姿。ま
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