オレの優しさ、貴方の憧れ

世の中にはおかしな物が多々あるものだと今はっきり身をもって実感した。
ここまで実感したことは生まれてこのかた何度かあったがこれはこれでまた新しい。

オレの目の前、すぐそこに行き倒れている人間がいる。

それもただの人間じゃない。
髪の毛の色が薄い金色。
染めて出るような痛んだ色ではない、自然で綺麗な色。
それを隠すために被っていたのか黒い大きな帽子が傍に置いてある。
顔はどのようなものかはうつ伏せになっているので見えないがそれでも背後しか見えないその体つきは目を見張るものがある。
うつ伏せだから体重がかかってしまい潰れる豊かな胸はオレよりも年上であろう彼女の年齢平均よりもずっと上だろう。
露出の激しい服装。
そこからみれるくびれた白い腹部。
近くに落ちたまるでマントのような黒く大きな布。
まぁ確かにここ最近は暑い日が続くから夜中になろうとそんな格好をおかしいとは思わない。
…いや、マントはちょっと風変わりだけど
一見すれば金髪の外国人の女性としか見受けられない彼女。
だが問題はそこにあった。

腰に長剣を携えていた。

レイピアとか、まるで漫画やゲームに出てきそうな剣。
持っていれば銃刀法違反で捕まることは間違いないだろうに。
一見普通に見えてそうではない倒れた女性を目の前にオレがすべきことはただ一つ。




「見なかったことにしよう」



そう言えればなんと楽だったことか。



「おい、そこの君待ってくれないか?」



その言葉が聞こえなかったらどれほど楽だったか。



「…」



見捨てられたらどれほど楽だったのか…。




「いやぁ、面目ない」
「いえいえ」
都合がいいことに今家にはオレを除いて誰もいない。
両親は互いに一週間の出張、姉ちゃんは大学の友達の家に泊まる、我が麗しき暴君(双子の姉)に至っては姉ちゃんと同じように友人の家に泊まるという。
本当に都合がいい。
その都合の良さを利用して一人でしかできないことをしようとしていたのに…まったく。
小さくため息を吐いてオレは目の前で椅子に座る彼女を見た。
先ほどとは違って正面から拝めることができる彼女の姿。
細い眉に長めの睫毛。
スラリとした鼻筋に白い頬。
血のように真っ赤で凛とした瞳に、同じく血のように赤い艶やかな唇。
誰がどうみても美人。
どこをどう見ようとも美女。
なんとも珍しい。
黒髪黒目の日本人が大勢いる国でこのような金髪赤目の美女を目にすることができるなんて。
それ以上にこんな風変わりな剣を携えているなんて。
…いわゆるコスプレだろうか?
「見覚えのない街にいきなり出たと思えば路銀も尽きてあまりの空腹に倒れてしまい、君に助けられるなんて。本当に助かった、ありがとう」
「いえいえ」
どこか引っかかるもののいい方。
古風で今時の女性らしくない堅苦しい性格なのだろうか。
それに先ほど言った、見覚えのない街という言葉。
どう言う意味なのだろうか。
「でもお姉さん、そんなもの持ってたら警察につかまりますよ」
一応変な女性でも一度家に招き入れてしまった以上、親切心から言わせてもらおう。
しかし彼女はオレの言葉に変わった反応を返す。
「いや、これがないと戦えないからな」
「…戦い?」



「そうだ、ヴァンパイアとの戦いだ」



「…」
あいたたたたた、この女性、痛い人か。
平然と何もおかしくないと言わんばかりの真面目顔でとんでもないことを言いきった。
これは…とんでもない女性を家に招き入れちゃったな。



「まぁ、そのヴァンパイアといっても母親なんだがな」



そう言ってちらりと一瞬だけ真っ赤な唇の隙間から鋭い八重歯が覗いた。
だがその発言…。
「…」
いてててて、とんでもないことを言っちゃったよこの女性。
ヴァンパイアが母親?
それはもうオレの予想をはるか斜め上に超えていった発言だ。
瞳が血のように赤く、八重歯が尖ってる。
それは伝承上のヴァンパイアの特徴そっくりだろう。
だが、そんな存在こんな科学あふれる現代にいないだろうに。
「…ってことはお姉さんもヴァンパイアなんだ」
はははと乾いた笑いでなんとかオレは反応を返すが彼女は真っ赤な瞳をオレに向けていやと否定の言葉を紡いだ。



「ヴァンパイアではなく、ダンピールだ。ダンピールのウルスラ・リモンチェッロ」






「母などいつも父を尻に敷いていたくせにいざという時はもじもじしてて何もしないからな。正直二十数年間同じ姿を見せつけられて私もその意地っ張りな性格を直してやりたいと思った次第だ」
「母親想いなんですね」
「それで私の、ジパングで言ういわゆる座右の銘は『思い立ったら即行動』だな。母のようにいつまでも傲慢でいじいじしてなどいられない」
「いいことだと思いますよ」
「母の娘であるがダンピー
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