オレとデート

約束をしてから数日後、とある土曜日の午後三時。
日差しは温かく頬を撫でる風は穏やかで香しい緑の匂いを運んでくる。
特にこれ取ったことのない和やかな午後、そんな時間にオレは駅の前で立っていた。
時間も時間であり出てくる人、入っていく人は少なく、これならすぐに見つけられるだろう。
元が目立つような姿であり、あまりにも美しすぎる風貌は周りよりもずっと際立っている。
ならば探す必要もなくすぐに見つけられるはずだ。
しかしあの女性にしては珍しい。
普段昼間っから外を歩いているような印象はなかったというのに。
基本的に夜行性っぽくて行動するのも大半夜だと思っていた。
実際あの人昼よりも夜の方が元気だし。
…いや、厳密に言えば夜の方が発言が過激になるというところなんだけど。
そんなことを考えていたらいきなり目の前から光が消えた。
「!」
一瞬で目の前が闇に包まれる。
それでも周りの喧騒は変わらないし、吹き寄せる風も止んだわけではない。
変わったことといえば緑の匂いに別の匂いが混じったこと。
ずっと強く、それなのにしつこくない甘い香り。
甘ったるいといってもいいはずのそれはどこか爽やかにも感じ取れた。
それから感触。
まるで目を覆われているかのように絹のような滑らかな肌触りがする二つのもの。
体温がじんわりと伝わりるそれは優しくそれでもしっかりとオレの顔に張り付いている。
ついでに背中に当たる二つのふくらみは服越しとはいえその感触は肌から伝わり脳へ突き刺さっていた。
こんなことをするのは一人しかいない。
「だ〜れだ?」
「…師匠」
「当たりだよ♪さすがユウタだね♪これはご褒美が―」
「―いいです」
人の目を覆っている両手からすり抜けるように後ろを向くとそこには普段以上に嬉しそうに笑みを浮かべる師匠がいた。
「…近いです」
「そうかな?」
鼻先が触れ合うまで拳一つの隙間もないのだから十分近いだろうに。
一歩下がって師匠の全体像が見えるようにする。
「…ぉお」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
白く短いティアードスカート。
カジュアルなミリタリージャケット。
並んだ茶色のブーツ。
ファッション誌に出てきそうなものだが師匠が着ているだけでそれ以上のものとなる。
師匠の普段着はそうそう見ないからとても新鮮だ。
そんな中でも何より目を引いたのは片耳だけに付けられたイヤリング。
普段していないことからそれは穴を開けるタイプのものではないだろう。
ハートの形をしたピンク色の不思議な宝石が揺れている。
師匠はそういうアクセサリー類はいつもしないから持っていないと思ってたのに。
それにしてもハートか…空手の道着の帯にあったのもハートのマークだったな。
女性はやはり好きなのだろうか。
「どう?どう?似合ってるかな?」
「…あ、ええ、すごい綺麗ですよ、師匠」
「んふふ〜♪ありがと♪」
嬉しそうに体をくねらせえへへと笑う様は子供のそれと全く同じ。
その様子にオレもつられて笑みがこぼれた。
もとが美女である師匠なら何を着ようとも似合うこと間違いないだろう。
それならどんな言葉も当然過ぎるものだがそうとしか言えないのだから仕方ない。
仮に今オレが着ている服を師匠が身に着けてもいけると思う。
凛とした女性らしさを惜しげもなく晒し、大人の女性という雰囲気をかもしだす。
しかし、しない。絶対しない。
そんなことをすれば師匠はオレの服をそのまま強奪しかねないし、最悪師匠の服を着せられかねない。
「ちなみに今日の下着は勝負下着で―」
「―スカートをたくし上げようとしないでください」
その後師匠はするりと滑るようにオレの隣に立つ。
手は当然といわんばかりにオレの手に絡められていた。
すべすべの肌の感触、えも言われぬ体の柔らかさ、どこか男を意識させるような体温。
それらの感覚はいつも感じているものなのになぜだかドキドキした。
「それじゃあ行こっか♪」
「…え?行くってどこに?」
そもそも今回は食事するということで約束したはずだ。
約束の時間が夕食の時間帯よりもずっと早いからまぁ何かあるだろうことは予想していた。
それでも、どこへ行くかなんて考え付かない。
…あ、いや…一つだけ予想がつくところはあるけど。
「いいから、行こっ♪」
「あ、師匠っ!?」
そのままオレは師匠に手を引かれて行くのだった。





そのままどこか目的地があるわけでもなく二人で並んで歩いていた。
ここは地元から少し離れたところなので田舎でありながらも都会らしさがある場所。
なのでデートや買い物には最適の場所だ。
…デート?
「えっと、ユウタは何食べる?」
「へ?」
師匠の声に顔を上げるとそこにあったのはとあるクレープの屋台。
値段もお手ごろ種類も豊富でうちの高校でも話題に上がるところだ。
「せっかくだから一緒に食
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