「ふぅ〜……」
放課後の食堂で、雑賀宗一郎は満足げな息を漏らした。彼の通う高校の隣で買った饅頭を一口食べ、一緒に買ったお茶を啜る。彼にとっての放課後の至福の一時だった。
「ふぅぅ……」
「おい」
彼がもう一つ息を漏らしたところで、宗一郎に声をかける者がいた。彼がそちらを向くと、クラスメートの嶋瀬真二が微妙な表情を浮かべて、椅子に座った宗一郎を見下ろしている。
「いつもの事ながら、爺くさいな君は」
「いつもの事ながらはっきり言うね、君も」
真二は宗一郎の向かいの椅子に座ると、蒸しパンの包みと紅茶入りのペットボトルをかばんから取り出す。幼稚園のころからの友人でずっと同じ学校に通った彼らは、今でもよく話し、ともに登下校する仲だ。
「そう言えばな、今度クラスの女子たちとカラオケに行くんだが、宗一郎は来るか?」
「ん……。いや、僕は歌うのは苦手だから遠慮しとくよ」
「ふむ。歌うのじゃなくて女の子と話すのが苦手なんじゃないのか?」
宗一郎はそう言われ、む、と一つ唸った。彼にとって、女子と話す、ということはとてもストレスのたまることだった。まず、彼女たちの知っている話題が、彼の知識の範疇にない。どんなことを言えば、彼女たちが喜ぶのかわからない。結局、何を話したらいいのかわからない。どうしようかと考えるうち、女の子と向き合ったまま黙りこくり、気味悪く思われるのが彼の常だった。
「まあ……、無理にとは言わんがな。君は少し考えすぎるところがあるし、もう少し実践の中で学ぶ努力をしてもいいと思うぞ?」
「むむ……」
唸り、俯く宗一郎を見て、真二も一つため息を吐いた。
「ま、少し考えてみてくれ。来週の土曜だから、そんなに急がないでいいぞ」
そう言って微笑む真二を見るたび、宗一郎は自分が情けなくなった。
――自分から話しかける勇気、か……。
そう思うと、宗一郎は深く、深くため息を吐いた。
* * *
「じゃあ、また明日な」
「うん、じゃあね」
宗一郎は駅で真二と別れると、自分の家へと向かう。夕陽を見ながらゆっくりと歩いて帰るのが、彼は好きだ。いつもの道を通り、家路へ向かう。
――そう言えば、今日は僕一人だな。晩飯何にしようかな……。
彼の両親は出張が多く、家を空けることが多い。自然、食事を作ったり、掃除をしたりということは彼の仕事になっていた。帰ってからの予定を頭の中で整理しながら彼が歩いていると、通学路の途中にある寂れた神社が目に入る。
――せっかくだから、お参りしていこうかな。
彼はそう思うと、本殿へ向かう階段を上がった。
宗一郎が本殿の前まで上がると、ちょうど夕陽が山の向こうへ沈もうとしているところだった。小高い丘の上に建っている神社のため、夕焼けに町が染まる様子がよく見える。
「綺麗だな……」
彼がそう呟いた時、何か黒い影が空を飛んでいるのが見えた。鳥のようにも見えるその影はどんどん彼に近づいてくる。
「あれって……、人!?」
近づいたことで、その影が背中に羽を持った人、それも少女であることがわかる。
「よ、避けてぇ! 避けてぇぇっ!!」
「うわわわわ!!」
悲痛な声を上げ、少女は宗一郎のほうへ突っ込んでくる。宗一郎はパニックを起こして両手を広げて立ちすくむ。そして、少女は宗一郎の胸に思い切りダイビングした。
すさまじい勢いで彼の背中は地面にたたきつけられ、息が詰まる。視界いっぱいに青い光が輝いたのを見たのを最後に、宗一郎の意識は闇に飲まれた。
「う……」
宗一郎は一つうめくと、目を開ける。何がおきたのかわからないのと、背中に大きなショックを受けたのとで、宗一郎の意識は朦朧としていた。何とか息をしようとするが、背中を打ったためかうまくできなかった。
「ン……」
少女も目を覚まし、身じろぎをする。宗一郎もショックから少し立ち直り、そこで、宗一郎は自分が少女を抱きかかえていたことに気がついた。あわてて彼が手を離すと少女も彼から離れ、傍らに座ると、彼の手を取った。
「イル・クルナ……!?」
彼女は目に涙を溜めてそう言った後、慌てたように首に手をやり、壊れたペンダントを見て顔を青くした。
「え、ええと……」
苦しげに宗一郎が声を出すと、少女はほっとしたように息を吐いた。少しずつ息ができるようになると、宗一郎は少女の姿を改めて見た。
その少女の頭には銀髪を分けて捩れた黒い一対の角があった。腰からは蝙蝠のような形をした細かな毛が生えた羽と、先のとがった尻尾が生えている。
飛び込まれ、たたきつけられた事には、不思議と腹がたたなかった。むしろ、少女の姿への驚きと、なにより彼女の美貌に宗一郎は目を離せなかった。
息を整え、這いずって少女から離れようとすると、彼女はぼろぼろと涙を流しだ
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