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妹がいなくなった。
いつものように 「いってきます」と言って
いつものように 朝日を浴びながら
いつものように 他の女達と秋のキノコ取りに行き
いつものように 「ただいま」と言ってくれる はずだった
昼に女が一人だけ戻ってきて「妹が消えた」と告げて
探すために若者を召集してみたところ村はずれのウォルが行方不明で
森が街道に近くなっている所で血まみれで死んでいるウォルが発見されて
たちの悪い人攫いが出たのではないか と誰かが言って
それから できることは なにもなかった
一人でいてはいけないと言う村長の腕を払って家に戻り
いつものように畑を耕し 共同井戸で水を汲み 鶏の世話をして
二人分の食事を作りながら 考える。
食事当番は俺じゃないだろ と
そんな事を幾日続けたかわからない。それでも畑を整え家を磨いた。
帰ってくる場所を守らなければ一生妹が戻ってこない気がした。
村のみんなが食べ物を持ってきて励ましてくれた。鶏一匹潰した人もいた。
そんな人たちも最後には悲しい顔で帰っていく。俺がうまく笑えないから。
「どこいったんだよ メアリー・・・」
昨年の冬、流行り病で両親が死んでから肩を寄せ合うように生きて来た。
嫁の貰い手も多かったのに俺が結婚するまで家にいると言ってくれた。
そのくせ女の話をすると妙にむくれて機嫌を直すのに苦労した。
絶対に幸せになって欲しいと願っていた 妹が いない
眠る為のベッドに一晩中座って、今夜も俺は悔やみ続ける。
訪ねてきたみんなを困らせてしまう程に 考えても仕方の無いことばかり
頭を抱え目を瞑り 同じ事を 何度も 何度でも
他の人とはぐれないように注意するべきだった とか
護身用にナイフでも買い与えるべきだった とか
"こんなことになるなら 抱いておけばよかった" とか
・・・え?
"嫁を貰わなかったのだって メアリーを手放したくなかったからだろ?"
なんだ これ
”寒い夜に同じベッドで寝た時 犯していればよかったのだ”
なんなんだよ
"興奮に血潮が滾っていた事を メアリーも気付いていたはずだ"
やめろ
"メアリーもそれを望んでいた事を お前は知っていたのに"
「やめてくれ!」
叫んで立ち上がり 二度三度喘いで 部屋の様子がおかしい事に気付く。
とにかく暗い 今座っていたベッドが見えない。触れば確かにあるのに。
雨戸の隙間から差すはずの月明かりが見えない。今日は満月のはずだ。
自分の体すら消されてしまったような浮遊感を帯びた恐怖が襲い来る。
恐怖・・・そう 怖いのだ。怖いはずなのに
俺の肉棒は張り詰めていた。先走りで前が濡れ始めている。
それは あの夜のように
妹の髪の匂いと温もりを思い出してしまったのがいけなかったのか
俺の興奮は天井知らずに上がっていく。
血の流れが乱れるのを耳に聞き溢れる涎を顎で感じる。
流れる汗と纏わり付く体温が鬱陶しくて上着を破るように脱いだ。
その胸に そっと 手が触れる
唐突に視界が開けた。見飽きた部屋がよく見える。
その所々に染みのように黒い何かがたなびいている。
目で追おうとして 気付いた。
顎の下に 頭が見える
見慣れた 本当に見慣れた光景だ
あいつを抱きしめると こんな感じで
髪の匂いが目の前の頭から立ち上り 温もりが寄り添う体から・・・
「メアリー?」
「・・・にいさん」
ずっと聞けなかった声を聞いた時には抱きしめていた。
メアリーの腕もゆっくりと力強く俺の背中に回される。
涙が止まらなくてメアリーの姿が歪んで見えていた。
そのせいで わからなかったことがある。
秋も終わろうというのに メアリーは一糸まとわぬ姿であることに
俺と同じ親譲りの茶色い髪が 紫がかった黒に染まっていることに
俺はメアリーの細腕でベッドに押し倒されるまで 気付いていなかった。
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