フレイムポーション

僕は子供が嫌いだ。考えなしに突飛な行動をとるからだ。
昔は僕もあんな感じだったなんて考えたくもない。

「泣いて いるのかい?」

そんな僕が何故この子に声をかけてしまったのか
生涯をかけても答えが出るかわからない。

僕は女が嫌いだ。アレは真理の探究に理解を示そうとしない。
『難しい話はやめてイイコトしない?』とは何事か!

「ミンナ コワガル ナカヨク デキナイ」

この子の声は子供である事を差し引いても甲高い。
女の子である事に初めて気がついた。

僕は魔物が嫌いだ。友達が魔物に襲われたからだ。
痩せ細りつつも奇妙に笑う友人は数日後失踪した。

「カラダ イロ チガウ ワタシ ナンデ?」

夕日を受けて赤く色づく体は良く見れば元々そういう色で
朱色のローブをかぶったように見えた体には手足が無い。

以上の個人的趣向と偶発的遭遇の帰結が錯乱と逃亡という
短絡的なものにならなかったのは学術的好奇心からだろうか?
いや 違う。

「僕が知ってる範囲で良ければ 君の事を教えてあげる」

何か言葉にできない予感めいたものに突き動かされて
僕は女の子の隣に座る。何のためらいも無く。

「君の体が赤いのは他の子よりも強く賢くなれるかもしれない印さ」
「シルシ?」
「そうさ。だから君が何か悪いことをした訳じゃないんだよ」
「ワタシ ワルクナイ?」
「悪くないけど 足りなかったのかもしれないね」
「タリナイ?」

女の子が首らしきものを傾げる。夕焼けの反射に目がくらむ。

「君は悲しくて皆から離れてしまったのではないかい?」
「ウン イッショ イテモ コワガル」
「悲しくても一緒にいるのさ。悲しいって叫ぶんだ」
「サケブ?」
「そうさ。叫んでだめなら怒ってもいい。叩いたっていいさ」
「ダメ! イタイノ ダメ!」
「そうかい?それなら…困っている子がいたら助けてあげるんだ」
「タスケル?」
「いつも誰かに何かできないか考えてごらん。悲しんでいる暇も無い」
「カンガエル…」

独り言のように呟く女の子はすでに泣いていなかった。
太陽もそろそろ向こうの山に隠れそうだ。

「僕はそろそろ帰るよ。夜になるとおっかないからね」
「カエル? モット ハナソウ」
「この森には薬草を取りに来るからまた会えるよ」

こうして僕達の初遭遇は実に平和的に終了した。
名前が無かったレッドスライムに僕は『ベス』という名前をつけた。
ちなみに僕の名前はナイジェル・ハスター。薬草を研究しています。

――――――――――――――

「ナイジェル オハヨー」
「やあベス。今日も薬草採取にもってこいの天気だね」
あれから二ヶ月ほど経過して今は夏。他のスライムはベスを受け入れた。
今では彼女を若いスライムのリーダーに抜擢するくらいである。

他のスライムたちに僕を紹介してくれた時は数十匹のスライムに囲まれて
生きた心地がしなかったが思わぬ申し出を受けることとなった。
森の中にいる間は他の魔物から守ってくれるというのだ。
『スライム イジメル ニンゲン オオイ オマエ チガウ ヨカッタ』
一番大きいスライムが体を震わせて語った。
どうやら面白半分でスライム討伐をする馬鹿がいるらしい。
魔物というだけで嫌っていた僕には耳が痛い話だ。

護衛は基本的にベスが受け持つ事になった。彼女はレッドスライムなので
若くても成体並の攻撃力を持っているからだ。薬草採取も手伝ってくれる。
「ナイジェル コレハ クスリ? ソレトモ ドク?」
「花だけ使える。葉と根には毒があるんだ」
ベスはとても賢い。薬草の種類も大抵は一発で覚えてしまう。言葉も
出会った時より単語が増えて、心なしか流暢になってきた気がする。

沼のほとりを散策している時、無理な体勢で薬草を取っていた僕は
足を滑らせて沼に落ちた。水中は視界が悪く意外にも底が深い。
全身を襲う衝撃に僕は肺の中身を盛大にぶちまけてしまった。
パニックを起こした僕はでたらめに手足を動かし水面らしき方を目指すが
濡れた服がまとわりついて満足に動けない。もうだめかと思った時
泡をまとって一抱えくらいの何かが飛び込んできて顔にまとわりついた。

「ナイジェル!」
耳に張り付いた部分から聞き慣れた声が響いて僕は硬直した。ベス?
「スコシダケ ガマンシテ」
顔を完全に覆ったベスの一部がおもむろに僕の口に進入した。
一息で気道をふさぐ水を吸出し体外へ戻っていく。
入れ替わりに新鮮な空気が肺を満たす。少し頭が働くようになった。
ベスの体は僕の鼻先から管を形成して水面まで延びていた。
「スイメンマデェ カラダヲ ノバシタッ タドレバ ャン! アガレル」
僕の呼吸がくすぐったいのか 時折身を振るわせるベスの導くまま
僕が生きられる場所を求めてひたすら手足を漕いだ。

ようや
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