一口に冒険者といっても、実際の所その生態には多数のバリエーションが存在する。
堅実な労働を嫌い、国から国へと渡り歩き、必要に応じて現金と引換に自らの武力を振るうレザのような生き方は、冒険者たちの中でもかなり「傭兵」に近いものだった。
冒険者といえば自由な旅人というイメージが定着しているが、レザには遺跡を盗掘するスキルや骨董品の価値を見極める眼など、冒険の旅の中で金を稼ぐ能力が欠けていた。できることといえば剣を振り回して闘うことぐらいで、その技能を活かせる、則ち武力が求められている戦場や内戦地なんかを回っては日銭を稼ぐ、根無し草の如き暮らしをずっと続けていた。
そんな彼がある日、旅の途中で田舎の小さな町を訪れた。
特に見るべきものもない僻地のこと、少し身体を休めたら出発し、新たな戦場へ自分を売りに行こうとしていたレザだったが、宿の主人から一儲けできそうな話を聞いてしまった。
主人曰く、このごろ村の近くの森にダークエルフが一人出没しているとのこと。
特に人的・物的被害は出ていないらしかったが、主神教団の教えを信じている宿の主人はレザの素性を知ると、金ならいくらでも払うからあの恐ろしい魔物を追い払ってくれと言い出した。
金はいくらあってもありすぎるということが無い。とりあえず様子を見て、倒せそうならサクッと片付けて礼金がっぽり、無理そうなら適当にごまかしてトンズラここうかと、そんな気分で彼は森へ向かった。
村を出て少し歩くとすぐ森にたどり着く。暗くなってくると危ないので、あまり深くまで入らないようにしながら様子を見る。
しばらく、森の外へ出る道だけは確保しながら適当に散策していると茂みの向こうから音がする。剣の柄に手を掛けて半身になると、果たして褐色の肌の美女が現れた。
微かに緑がかった長い銀髪や血のように真っ赤な瞳、なにより尖った耳が特徴的なサキュバス、ダークエルフである。
片手に長い鞭を携え、露出度の高い革ボンテージ服を身につけたその女は値踏みするような眼で森への侵入者たるレザを見ている。上半身には、乳房を半分程度しか隠さず、たわわに実った巨乳の横乳や下乳を大胆に露出している、まさしく痴女と言うべき衣装をまとい、その下にはショートパンツのような形で、更に紐で結われた隙間から肌を魅せる、やはり露出過多な服を履いている。
体幹がそんな有様なのに、両腕には二の腕半ばまで届く長い手袋をつけ、脚には膝下までのブーツを履いている。
隠さねばならないところを晒し隠す必要の無いところを隠す背徳的なファッションはレザの思考力を一瞬奪い、彼の眼を釘付けにした。
露出狂めいた美女の出現で呆けかけたレザはなんとか自分を取り戻し、剣を構えてダークエルフを見据えた。自身に見惚れる男の視線を嬉しげに浴びていた彼女は、闘志を向けられると途端に不機嫌そうになった。
目鼻立ちの整った、いかにもエルフらしい鋭い美貌が、口をへの字に曲げるという稚気に溢れた表情のせいでどこまでも可愛らしくなる。誘惑されそうなのをこらえながら言った。
「最近ここに来たっていう魔物は……あんたのことだな?」
「ええそうよ、人間さん。私はダークエルフのヘルシェ。何か御用?」
「なに、大したことじゃねえよ。……ちょっと手合わせを、な!」
相手は魔物、下手に長引かせてはどんな妖術を使われるか分かったものではない。一気に攻勢を掛けて反撃の芽を摘み、制する。もしそれが不可能なら速やかに離脱。金次第でどうとでも動く冒険者らしいプランを胸に、レザは突っ込んでいった。
そして次の瞬間、剣を一振りする間も無くレザは敗北し、革ベルトで背中側に回された両手首を拘束され、地面に仰向けに突き倒されていた。
戦闘することすら叶わなかった彼の醜態を冷たい表情のヘルシェが見下ろす。トントンと右のつま先で地面を叩き、問いかけた。
「やれやれ。『手合わせ』ですって? その程度の技量で、よく言ったものね。人間の中じゃあ、まあまあやる方なんだろうけど……魔物相手にそんなの、通用するはず無いじゃない」
それなりに死線と修羅場をくぐって来たレザにとって、こうまで圧倒的な、言い訳のしようもないほど徹底的な敗北は耐え難いものであり、歯を食いしばって顔を背けてみても屈辱感で死にたいくらいだった。
そんな彼の様子をじっと見ながら、ヘルシェと名乗ったダークエルフはゆっくり、魅せつけるように右のブーツを脱ぐ。余計な肉も脂肪も無い、細く均整のとれた生足を外気に晒し、獰猛に笑んだ。
「ダメよ、思い上がっちゃ。人間が私に勝てるなんて思っちゃダメ。それは傲慢なことなのよ……身の程知らずの男の子には、お仕置きしてあげる」
侮られても蔑まれてもレザは抵抗できない。ヘルシェが器用にも、右足指だけで彼
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