デリュージョン、デリリウム、ディレインジメント

 深く愛した女に手ひどく振られた俺は自尊心の一切を失った。
 所詮俺ごときの誠実さなど積み上げられた札束の前には無いも同然なのだという、ごくありふれた真実が痛い。
 巷に溢れる「女に愛されない奴は努力が足りない」などという、空虚で浅薄で傲慢で他者を見下すためにしか役立たない下らない言葉が俺の心を枯れ果てさせる。
 骨髄まで染み通った労働者根性のお陰で毎日出勤することはできているが、仕事中もほとんどうわの空で会話もできない。周りの奴らもそんな俺を気味悪がって寄って来ない。
 世界には俺に関心を向けない奴と俺を捨てる奴と俺から女を奪っていく奴しかいないのだという悟りで心身耗弱状態となっていた金曜の夜、会社からの帰り道、裏道で奇妙な店を見つけた。
 小汚い雑居ビル、その入り口に濃い桃色の看板が立っている。「サロン Delusion」と書かれたそれは内側の安い蛍光灯でけばけばしく輝いており、見るからにいかがわしい。
 立地から言って間違い無く風俗店、売春の店である。
 財布に多少の余裕があった俺は理由も無く、その店に入ってみたくなった。
 この手の店で下調べ無しに良い結果を得られる確率は極めて低いのだが、そんなことは重々承知の上だ。自暴自棄になってしまえば地雷もパネルマジックも怖くはない。
 一体どんな酷い女が俺を慰めてくれるのだろうかと、刹那の虚しい癒しを求めて薄暗い階段を登っていった。
 ビルの外見の割に、妙に細長くて急な階段をただ登る。
 大人一人がやっと通れる程度の狭さで、もし上から誰か降りてきたらどうやってすれ違えばいいのかもわからない、消防法違反上等過ぎていっそ非現実的な階段を登り切り扉を開くと、小さなカウンターがあった。
 普通の店ならば待機しているはずの黒服や遣り手婆の姿は見えない。壁には張り紙がしてあり、料金が書かれている。遊べる内容や女の質にもよるが、なかなか悪くない値段だ。
 少し待ってみても、出迎えが来る様子は無い。今日は休みなのかと思いかけたが、カウンターの側、プレイルームへ続いているらしい廊下の方から人の気配がする。
 まさか、人件費削減のための経営策なのだろうか。ガソリンスタンドや無人スシバーのような、無人ピンサロだとでもいうのだろうか。馬鹿馬鹿しい妄想を抱きながら覗きこんでみると、手前に一つ大きめの扉がある。
 明かりが点いていて中に人がいるらしいが、扉は僅かに開いており鍵も掛かっていない。お楽しみ中の男の気配も無く、俺は意を決して戸を叩いた。

「……すいません。誰か、いますか?」
「あ、お客さん。どうぞどうぞ、中へ」

 ひょっこり顔を出したのは若い女の子。やけに嬉しげな彼女に手を掴まれ、そのまま個室へ引きずり込まれてしまった。
 胸元と頭に赤いリボンを結びつけたその少女が俺の相手をしてくれるらしい。キャミソールのような薄い灰色の下着だけを身につけた彼女は、小柄でありながら胸元に大きく育った魅惑の肉塊を一対ぶら下げていた。それでいて余分な肉はついておらず、腰はくびれお尻はふっくらな素晴らしい体型。更に顔の方も、釣り気味の大きな目とちょっと悪戯っぽい口角が愛嬌に溢れていて、見ているだけでも楽しくなってくる。顔も、体も、先端をくるんとカールさせた綺麗な長髪も全てがとても魅力的な、文句なしの上玉だった。
 四十路や五十路の婆を相手取ることも覚悟していた俺にとってこの神憑った引きは予想外だった。こんなに可愛い、非人間的なまでに色の白い美少女とあれこれできるとは。
 指名の有無を聞かれもしなかったことや、不審にもその少女以外誰も従業員らしきものが見当たらないことなど忘れ去ってしまうくらい、俺は「アタリ」に興奮していた。

「お客様。私がお相手で、大丈夫でしょうか?」
「もちろんだよ。君みたいな可愛い子なら文句無しだ」
「ありがとうございます。私、カスカっていいます。今日はたっぷり、楽しんでいって下さいね」

 言いながらも、カスカと名乗ったその少女はもどかしげに俺を座らせ、ぱっぱと服を剥ぎとってしまった。暗赤色で統一された、ビジネスホテルの客室をぎゅっと縮小したような、調度の類がほとんど置かれていない簡素な小部屋に敷かれたマットの上に寝かされて、既に勃起してしまっている。
 キャミソールの肩紐をずり落とし、大きく膨らんだおっぱいを露出させてこちらの欲望を煽ってから、カスカは男性器に吸い付いた。
 まさかこんな可愛い娘に、ウェットティッシュで拭かれるでもなくシャワーを浴びるでもなく、一日の汚れが残ったままのものをいきなり咥えてもらえるとは思ってもみなかったため、驚きと、それに倍する興奮を味わう。
 中学生男子のように節操無くそそり立ったものを、カスカはその小さな口で懸命にしゃぶる。溜まった垢をこそげ取るように裏
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