常人を遥かに凌駕する力を主神から授かった勇者に課せられる勤めは魔王討伐だけではない。
第一の義務は無論、神が作り、そして管理するこの世界から魔物たちを追放することだが、だからといってそれさえ考えていればいいというわけではない。
魔王の征伐と比べれば優先順位は低いが、人間たちの中で主神を信仰しようとしない者や、おおっぴらに魔物娘を支援する者、はたまた単なる野盗など、主神教の教義に照らし合わせて「不適切な」人間を処罰することもまた、勇者たちには推奨されているのだ。
「う、ぐぅぅ……」
「つ、強すぎる……」
街のはずれで大きな剣を地面に突き刺して、そこへダルそうにもたれかかっている男の名はイェスパー。周囲に倒れ伏した50人ほどの盗賊団を討伐し、一息ついたところである。
文字通り神がかった力を振るい、ドラゴンやバフォメット、リリムなど魔物の中でも特に強力な者たちと対等に渡り合ってみせる勇者の力は、単なるならず者がどうにか出来る範囲を大きく逸脱している。特殊な道具も持たず、魔物の支援も無いただの人間を何千何万集めようと、たった一人の勇者に対抗することすら叶わない。
そんな訳で、「国境から侵入してきた盗賊団を壊滅させる」というイェスパーの今日の任務は一秒と掛からずして終了。彼の傍に控える天界の尖兵、神軍の前線兵たる天使ディキエルの存在は、全く意味をなしていなかった。
小さな虫を人が踏み潰す時、その人間の体重が重かろうが軽かろうが、虫は死ぬのだ。
「さーて、今日の仕事も終わり、っと。帰って飯食おうぜ」
「……イェスパー。いい加減にして下さい。あなたの仕事は、こんな雑魚どもを潰すことではないと、何度言えば分かるんですか」
微かに金色がかかった、純白の美しい翼を持つ少女。仕えている先のポリシーを体現するかのように、その肉体は凹凸が少なく、人間でいうと十代初めくらいの発達具合。
だが、ちょっとウェーブ気味な金髪や青く大きめな瞳、まさしく神の手になる美しき容貌が、肉体の貧相さを補って余りある。むしろ、清純そのものといった顔つきと合わせるには、この平たい身体以外あり得ないだろうと、幼女性愛趣味の有無を問わず見る男全てに思わせる、魔性一歩手前の魅惑。彼女こそが、勇者たるイェスパーを補佐するためにやってきたディキエルだった。
そんな美少女はしかし、顔面に浮かぶ不満の表情を隠そうともしていない。唇を噛んで眉を吊り上げ、本来補佐しなければならないはずのイェスパーを鋭く睨みつけている。
「いつもいつも、ごまかして。早くこんな街出て、魔界へ向かわねばならないというのに……」
「はははっ。ごまかされる方が悪いんだよ。
ま、話し合いは後でじっくりしようや。部屋で二人、ゆっくりと、な」
常人では振ることはおろか、持ち上げることもままならない巨大な両刃剣を右手だけで持ち上げ、肩の上に担ぎ上げてイェスパーは言った。
天使の諫言を気にも留めず、勇者は歩み去る。その背を追わざるを得ないディキエルは、ただ俯いていた。
そして宿に戻った後。
ディキエルは部屋でイェスパーに抱かれていた。
「……やめ、なさい……! こんなこと、いい加減……!」
「またかよ。それ言いながら俺にやられるの、何回目だ?」
肉体派の勇者らしく、恵まれた体格と高い背丈を誇るイェスパーの腕の中に、小柄なディキエルはすっぽり収まってしまう。膝の上に載せた少女を男が背後から抱きしめる、まるで父親が娘を可愛がるときのような体勢だが、二人の置かれている状況は無論そんな和やかなものではない。
「何回でも言いますっ! 勇者がこんな、欲に溺れて……恥ずかしくないんですかっ!」
「ディキエルこそ恥ずかしくないのか。ほれ、もうパンツが脱げたぞ」
「!」
左手で天使の微乳を荒々しく揉みしだき、動きの止まったところをすかさず、余った右手で薄布を引っ掛け膝までずり降ろしたイェスパーは、余裕そうな口ぶりとは裏腹に息を荒げ始めている。尻に当たってくる硬い感触からも、彼の昂ぶりは十分良く伝わってきた。
しかし、ディキエルは天使。決して快楽を貪ってはならない存在である。燃え滾る男の熱を感じても、例えそれを好ましく思ってしまったとしても、情欲に流されてはいけない定めにある。きゅっと強く脚を締め、無言のままに性交を拒むと、イェスパーは彼女の耳元で囁いた。
「なぁ。ディキエルは俺とセックスするの、そんなに嫌か?」
「嫌、とか、そんな……」
「そうだよな。別に、嫌じゃないよな。ご褒美って言って最初に誘ってきたの、ディキエルだもんな」
「あれは、あなたがちゃんと、勇者として……」
「そうそう。初めて魔物と戦って、魔界へ追い返したんだったなあ。
さすがに殺せはしなかったけど、でも、それでいい
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