近頃魔王城では、あるホルスタウロスがどこぞのサバトに妙な魔導具制作依頼を持ち込み、結果殺されかけたらしい、という噂が実しやかに囁かれていた。
実際に死者が出たわけでもなく、噂の詳細も不明なためこの話に興味を示す者は少なく、他に数多ある与太話と同様、自然に忘れ去られていくかと思われたが、魔王軍第三魔術部隊筆頭のバフォメットがこれに食いついた。
ホルスタウロス、といえば貧乳派の宿敵巨乳派のなかでも特に目立つ乳の持ち主である。と言っても、戦闘能力は無いし、彼女らの出す牛乳の旨さは貧乳派にも知れ渡っているため、あからさまに対立するようなことは無い。バフォメット達が表立って交流を持つことは、普通無い種族である。
そのホルスタウロスが一体どうしてバフォメットの機嫌を損ねたのか、そこに彼女は興味を抱いた。 先日の円卓会議に続く現状打破の鍵、ブレイクスルーを、そのホルスタウロスが握っているような直感を得ていたのだ。
思い立ったが吉日。早速殺されかけたというホルスタウロスを特定し、会議に招聘することにした。
「これより、魔王軍第三魔術部隊公聴会を開始する」
雷鳴と暗雲をバックに、バフォメットが宣言する。状況は先日の円卓会議とほぼ同じである。大きく異なる点は、バフォメットと正反対の席に件のホルスタウロスが座っていることである。
噂はどうも本当のことだったらしく、魔女たちの視線を浴びた、ホル乳販拡委員会の長だというそのホルスタウロスは体をガタガタ震わせて、今にも失神しそうなほど怯えている。どんな酷いトラウマを植え付けられたのだろう、とバフォメットは少なからず同情した。
「議長どの。私たちの同族が先日は貴公に無体を働いたそうだな。その件について、まず謝罪させてもらいたい。
怖がらないで、と言っても難しいかもしれないが、ここにいる者たちは誰も貴公に敵意を持っては居ない。我々は議長どのの助力と助言を頂きたく、この公聴会にお招きしたのだ。」
バフォメットが深々と頭を下げ、配下の魔女たちもそれに従う。丁寧ながら威厳と威容を失わないその所作に、議長は彼女の器と実力を思い知らされた。
「……いえ、それについては、私どもの配慮も欠けていたというか……、自覚が足りなかったというか……」
「そう言ってもらえると、我々としてもありがたい。では、早速会議を始めようか。
先ずは、議長どのが制作を依頼したという魔導具について教えて頂きたい」
ようやく警戒心が薄れてきた議長は、起立してホル乳生産機(仮)の概要を説明し始めた。既に一度依頼をしたあとなので、その口調には淀みがない。
「私たちが考案したのは、自分以外の女のおっぱいを旦那さんに吸わせたくない、という魔物娘さん達の需要を狙った魔導具です。何らかの方法で、魔物娘さん達がホルスタウロス並みに美味しく高栄養、更に精力増強効果も備えた母乳を出せるようにできないか、という意見が販拡会議で出まして」
「成程な。ホルスタウロスの名を冠することで、母乳の品質を保証するということか」
「はい。私たちには技術力はありませんが、高品位ミルクのサンプルなら提供できますから」
概要を聞き、バフォメットは軽く俯いた。またなにか機嫌を損ねることを言ったか、と議長が恐怖した瞬間、バフォメットはやにわに立ち上がり、高笑いを始めた。
「ハハハハ! いいぞ! これだ! これこそ我々の切り札となるべきものだ!
議長どの! その魔導具、我らサバトが責任をもって仕上げてやろう!」
「え、あ、ありがとうございます……」
「金は要らん。売り上げは全部そちらで持って行くがいい。その代わり、完成品を幾つか我らにも引渡してもらいたい。それで問題無いか?」
やっぱりバフォメットたちの考えることはよく分からない、と議長は困惑したが、どうも話は予想以上に良い方向に進んでいるらしいことは理解できた。
「その条件なら、是非お願いしたいのですが、……本当に良いんですか?」
「ああ構わんとも! 寧ろこちらが礼を言いたいぐらいだ! こんな素晴らしいアイデアをもたらしてくれるとはな!」
バフォメットは魔女たちに向き直り、力強く宣言した。
「これより、オペレーション・オキシトシンを開始する!」
バフォメットの指揮の下、サバトの魔女たちは一丸となってホルスタウライザー(仮)の開発に取り組んだ。母乳を出させる機械なんて作っても巨乳派を利するだけではないのか、という質問に、珍しくテンションの高いバフォメットは哄笑と共に答えた。
「考えが浅いぞセイレム! お前はなぜ男どもがでかい乳に惹かれるか、考えたことは無いのか!?」
「なぜ、と言うと……? 理由があるのですか?」
「確たるものではないがな。一説には、『乳房が大きい=授乳能力
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