逆説のアタラクシア

 とある休日。俺は一人、本屋にやって来ていた。
 本屋といっても、そこらにある普通の本屋ではない。第六天魔王書店という名のそのチェーン店は、普通の本以外に、買うのに資格、具体的には二十歳以上の年齢が必要な本やDVD、その他諸々を取り扱う、いわゆる大人の本屋である。
 ごく一般的な独身成人男性であるこの俺が、そんな本屋を訪れる理由は改めて説明する必要も無いだろう。その辺の店では手に入らない、いかがわしいアイテムこそが今回の目的である。
 未成年でも這入れる(ということになってはいるが、子供が一人でいるのを見たことはこの道何年の俺でも流石に無い)一階をスルーし、エスカレーターで上層部へ向かう。未成年者立入禁止の印を悠々踏み越え、降り立ったのはいわゆる「ジョークグッズ」のフロアー。
 人間の性器を模していながら時にそれらを遥かに超えた性能を発揮する、あれやこれやの並べられたスペースである。
 表では扱いにくい品物を大量に集積したことによって産まれる一種独特の雰囲気、言いようのない立ち入りにくさを覚えた俺は、しかし歩みを止めること無く陳列棚へ近寄っていった。
 人間、一度ラインを踏み越えてしまえば後は早い。初めて買うときにはひどく躊躇い戸惑った『穴』を、今では冷静に、商品同士を値段や性能で比較できるほどになってしまっているのだから。
 そう、俺がこの手の物を買うのは初めてのことではない。今回俺は、先日、長年の酷使と陵辱の果てに破れて殉死した『穴』の後継を買い求めに来たわけなのだ。
 男用のそれに匹敵する数の女向け製品や、ニヤつきながらそれら振動器具を物色するカップルなどの合間をすり抜けながら、あらたなる快楽を求めて冒険するか、それとも慣れ親しんだ古巣に回帰するか思案していると、視界の端に見慣れない製品が映った。
 この手の性具では珍しい、寒色の『穴』である。恐らくシリコン製であろうそれはどういうわけか青く透き通っており、小学校時代、理科の授業で作ったスライムを彷彿とさせた。
 物珍しさに惹かれて値札を確認した俺は、更に驚かされる。
 同じサイズの他商品と比べると、このクリアブルーの『穴』は遥かに安かったのだ。そのお値段、類似製品の実に5分の1。
 確かにこの手のブツは販路が限られているせいか、通販などでは定価より大幅にディスカウントされていることも珍しくない。それを加味してもなお異常といえる低価格に、俺の好奇心は大いに刺激された。
 安物買いの銭失い、という諺もあるが、失うことが惜しくないほど安い品物ならば、とりあえず買って試してみるという選択肢も決して愚かとは言えまい。昼飯一回の値段よりも安いそれを手に取り、俺はレジに向かった。
 会計を済まそうとした俺は三度驚かされた。カウンターに立っていたのは、なんと女性店員だったのだ。
 男性客の買いやすさを考慮してか、あるいは単に女性のアルバイトが確保しにくいためか、この手の店で女性がレジ係をしていることはあまり見られない。しかもレジスターの前にいたのは、テレビや映画で見られる女優など相手にならないような、絶世の美女だったのだ。
 更にその美女は、なにかキャンペーンの一環なのだろうか、コスプレをしていた。一見本物かと見紛うくらい精巧に作られたツノや青黒い尻尾、皮膜状の翼など、ゲームや漫画に出てくる悪魔っ娘そのものといったルックス。近くに林立する同人ショップでならともかく、この手の店でコスプレ店員とは、また珍しいものだ。
 美しすぎる異装のお姉さんに一瞬気圧されそうになったが、カウンターの前まで商品を持ってきておいて、直前で引き返すほうがよほどみっともない。
 できる限り平静を装い、俺は代金を支払って店を出たのだった。


 家に帰り着き、本日の戦利品を開封する。値段の割にいやに厳重に密閉された件の性具をプラスチックの箱から出し、軽く水で洗ってから早速味わってみる事とした。
 適当にローションを注ぎ、PCを立ち上げマイ・フェイバリット・エロゲーを起動。俺一人だけの祭りを始める。
 奮い立たせた自分のものに、クリアブルーのホールを被せていく。中ほどまで挿入して、俺はこの製品が今まで挿れてきたシリコン製の筒とは全く別次元にあるものだということを悟った。
 
「こいつは大した掘り出しもんだぜ」

 特殊な素材を用いているのだろうか、外側から掛ける指の力や向きが、複雑に分散され内部で拡散し、包んだものを全方位から愛撫してくれる。まだほんの数回しか往復させていないのに、まるで初めてはめた時のように俺は追い詰められてしまっていた。

「……!」

 穴の感触が心地良すぎて、いきそうになっても手を止めることができない。もうちょっと、と思うも虚しく、俺はあっさり射精してしまった。

「やべえなこれ。生まれて初
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