少女地獄

 7月8日
 今日、家から帰る途中の路地で一人の女の子が倒れているのを見つけた。
 白いフリフリなエプロンドレスを身につけた、十歳前後の女の子だった。最初は迷子かと思ったが、すぐに彼女から生えている角や翼に気がついた。
 反魔傾向の強いこの街では珍しい、魔物娘だった。
 このまま放っておいたら、神の名のもとに思考を停止し、他者を傷つけてでも自分のささやかな安寧を守りたがるあのゲス共に、この子が何をされるか分からない。
 長らく私の裡に秘めてきた、独善的で狭量な主神信仰への不満が噴出した。誰にも見咎められないよう密かに、私は彼女を家に連れ帰ることにしたのだ。
 ベッドに寝かせて介抱してやると、間もなく少女は目を覚ました。
 だがしかし困ったことに、彼女は自分の名前がレティシアだということ以外、何も覚えていなかったのだ。
 泣きそうな顔をしている彼女に、記憶が戻るまでこの家に居ていいと言ってあげたら、非常に喜ばれた。
 一切汚れのない、純粋な感謝に満ちた笑に、私の心はずいぶん温まった。私はまだ独身だが、いつか娘ができたら、きっとこんな気持ちになれるのかな、とも思った。 





 7月9日
 レティシアとの生活が始まった。
 家で待ってくれている人が居るというだけでも、仕事に身が入る。組織が、独身男よりも所帯持ちを優先して昇進させたがるのも、分かろうというものだ。
 昼食は簡単に作り置きしたものだったので、夕飯はちょっと手を掛けて二人分の食事を用意した。
 何度もありがとうありがとうと言いながら、作った料理をすごい勢いでぱくぱく食べてくれるレティシアを見ていると、調理の手間など吹っ飛んでしまう。
 ただ置いてもらっているだけでは申し訳ないから、自分も何か家のことをしたいとレティシアは言っていたが、気にするなと言っておいた。
 まだまだ子供で、それも記憶がないという辛さも背負った彼女に、労働を押し付けたくはない。





 7月10日
 驚いた。
 家に帰ると、レティシアが二人分の食事を用意していくれていたのだ。
 昨日私が調理するのを見て、道具や食材の場所を覚えたのだろうか。食べてみると、子どもの作ったものとは思えぬほど美味い。悔しいが、私よりも料理の腕は上らしい。
 『勝手に道具を使ってごめんなさい。でも私もお兄さんに何か、してあげたくて』と、レティシアは言っていた。
 そこまで言うのなら、と、なし崩し的に彼女が我が家の料理当番となってしまった。まあ、一般の父子家庭などで娘が食事の用意を一手に担うなどということも、よく聞かれる話である。ただ家でじっとしているよりも、何かしている方が記憶も戻りやすいだろう。





 7月13日
 料理のみならず、洗濯や掃除までもレティシアがこなしてくれるようになった。
 そこまでしなくていいと何度も言ったのだが、彼女の強い要望を無下にする事は、できなかったのだ。
 正直に言って、男の独り身としては非常にありがたい申し出である。せめて、一日も早くレティシアの記憶が戻るよう、出来る限りのサポートをしてやりたい。





 7月15日
 今日私が風呂に入っていると、レティシアが『お背中お流しします』などと言って入ってきた。
 最初は面食らったが、私のような成人男性があのような小さな娘相手に邪念を抱くはずもない。
 見知らぬ土地で一人という寂しさもあったろう。綺麗な金髪を丁寧に洗ってやると、目を細めて悦んでくれた。





 7月18日
 あれ以来毎日のように、レティシアが私と一緒に入浴しようとしてくる。
 別に構わないといえば構わないのだが、私の裸をじっと見るのは止して欲しい。やけに念入りに背中を流してくれるようにもなってきたが、そこまで熱を入れてくれなくとも良いのに。





 7月21日
 レティシアもずいぶん、この家に慣れてくれたようだ。
 朝は私より早く起き、ちょっとした朝食を作ってくれる上に弁当まで持たせてくれる。同僚たちをごまかすのは大変だが、実に嬉しい心遣いだ。
 夜は夜で一緒に風呂に入ったり、私と過ごす時間をずいぶん楽しんでくれているらしい。
 それ自体は良い事なのだが、股の間や胸のあたりまで洗おうとしてくるのだけは困りものだ。





 7月24日
 なんということだ。
 いつもの如くレティシアが、純粋に気持ちで私の体を洗ってくれていたというのに、まさかあんな反応をしてしまうとは。
 幸い彼女は、それほど不審を抱いていないようだったが……まさか、私の中に、あのような小さな子供を貪ろうとする悪徳が、眠っているとでも言うのか。
 いや、そんな筈は無い。単に触れられて、機械的に反応してしまったというだけだ。そうでなければおかしい。初潮が来ているかも怪しいあのような少女に欲情す
[3]次へ
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33