恋する女子高生は切なくて幼なじみのことを思うとつい魔物化しちゃうの

「今日こそ!」

 恋人の来訪を待ちながら、中ノ島 朱美は自室で一人、宣言した。

「今日こそあいつと、一線を越える!」

 先日幼馴染から恋人に昇格した男、聖 恭司と、最後まで行ってしまう為、身も心も結ばれんがため、朱美は今日この日の舞台を整えたのだ。

「父さんも、母さんも、今日は遅くまで帰ってこない……そのことはちゃんと、伝えてある! 鈍い恭司でも、この事の意味はきっと分かってくれているはず……!」

 朱美と恭司は、いわゆる幼馴染。
 家が近く、親同士の年代も近かったことから、小学校に上がる前から家族ぐるみの付き合いをしてきた間柄である。
 気が強くて喧嘩っ早い朱美と、どこか飄々としてマイペースな恭司。一見正反対な二人だったが幼い頃から不思議と気が合い、高校に上がるまではずっと、良い友人同士であった。
 そんな二人が年を重ね、思春期に差し掛かるにつれ関係を「友達」から「恋人」にランクアップさせたのは、ある意味では自然な成り行きだった。
 愛情を、気持ちを確認しあい、互いを伴侶として受け入れるまでには少なからぬ紆余曲折もあったが、晴れてカップルとなった現在、朱美たちは誰に遠慮するでもなく、清く正しい男女交際を続けてきていた。

「健全な男子高校生なんだもん。恭司だってきっと、そろそろ求めてくれるはず……」

 そう、「清く正しい」交際である。傍目から見て辟易させられるほどラブラブな二人の間には、意外なことに、未だ体の関係が無かった。
 幼馴染の悲しさか、二人でいて楽しいことは楽しいのだが、なかなか「そういう」雰囲気にならないのだ。普通の高校生カップルならば一つの節目ともなりえる「女の子が男の子を家に呼ぶ」というシチュエーションなど、10年以上前に済ませてしまっているわけで。
 お互いを異性として認めてはいるはずなのに、どうにもなかなか行動に移せない。なまじ、相手のことを理解しているが故に、思い切ったアプローチを掛けにくい。
 この、ある種の膠着状態に、先に痺れを切らしたのは朱美だった。

「大体、若い男の癖して、あんなに淡白な恭司がおかしいのよ。もっとこう、アグレッシヴに来なさいよ」

 揶揄するようなことを呟きながらも、朱美の表情に嫌悪は無い。どころか、その瞳には何か禍々しい欲望の渦すら垣間見える。

「今日、あいつのほうから言い寄ってこなかったら、私が襲ってやる……! 手の遅い恭司が悪いんだから、文句なんて言わないわよね……!」

 身体を火照らせ、誰にでもなくそういった瞬間。

「その意気や良し、よ」
「!?」

 突然の声に、朱美は体を強張らせる。声のほうへ振り向くと、そこには奇妙な女がいた。
 宙に浮く、黒い球体に腰掛け脚を組んだ、凄絶なまでの美女である。
 布面積の極端に少ない衣をまとい、白磁の如き玉肌を惜しげもなく露出させたその女は、唇を軽く曲げて部屋の主をじっと見る。見知らぬ侵入者に身の危険を感じながらも、持ち前の強気さで朱美は問いかけた。

「あなた、誰!? 一体どこから……」
「私の名前はルリコ。魔界の姫、魔王位継承候補の一……と名乗ってみても、貴女には意味が分からないだろうし、またそんなことが知りたいわけでも、ないのでしょうね」
「はあ!? 何を言って……出て行ってください! 早くしないと、警察を……!」
「まあ、まあ、落ち着いて。悪いようにはしませんから。貴女、今日来る例の……恭司さん、でしたか。その人と、セックスしたいのでしょう?」
「!!」

 いきなり現れた見知らぬ人物に極めてプライベートなことを指摘され、朱美の体が固まる。言葉に詰まった彼女に、更に畳み掛けるように、ルリコが告げる。

「男を欲するその感情に呼ばれて参上したのが、この私よ。そのための能力を授けに来たのが、この私なのよ」

 恐怖と驚愕に硬直したままの朱美に、ルリコがそっと手を伸ばす。真っ赤な唇を三日月形に歪め、魔性は囁く。

「男を魅了して、堕として、貴女だけの物にして独占できる肉体。欲しくはないかしら?」

 ちょっとハスキーで、耳を通じて魂そのものを撫でさするような、妖艶極まる声。同性愛の趣味は無いはずの朱美ですら、その響きの余りの心地よさに、思わず陶然とさせられる。

「肉体……?」
「そう。とびっきりに強くて、綺麗で、なによりエッチな悪魔の体。一度味わった男は二度とほかの人間のことなんか考えられなくなる、麻薬みたいな体。要らないかしら?」

 妖しい美女の誘惑に、朱美の理性は確かに抵抗した。「悪魔の体なんて、そんなものは要らない」と、「分けの分からないものは必要ない」と。しかし、「男を独占できる」というその一言に、彼女の本能は疑いようも無く屈してしまっていた。
 魔界の王女が誘惑すれば、男だろうと女だろうと、ただの人
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