フレンダ・ゴールドフィールドは工作員である。
教会組織に所属し、主に親魔物国やそれに与する機関・組織に対する諜報・破壊活動を主軸とした様々な任務を請け負い、成功させてきた彼女は、その職務の性質上名前を広く知られることこそ無いものの、立場と階級に縛られ何かと身動きの取りづらい上級僧官達から大いに頼りにされていた。
彼女のエージェントとしての武器、それは彼女の外見にある。
年齢に比して異常に若く、まるで就学期の児童のように見える容姿体格こそが、フレンダの最も頼りとする物である。
なにも、フレンダの体力魔力が一般人に比べて劣るというわけではない。寧ろ、教会上層部より下される裏仕事、あまり公には出来ないような後ろ暗いところのある任務などをこなす彼女の戦闘力は、魔物はともかく普通の人間ならば到底相手になるものではない。
しかし彼女はあくまで工作員。武器や魔法で派手に立ちまわるわけにはいかない。
そこでフレンダの肉体が役立つわけである。
一見、どころか二度三度見ても十代前半にしか見えない彼女の姿形は見るものの警戒心を否応なく削ぎ取り、小柄さ故狭い通路や細い換気口を通っての潜入捜査も容易に遂行できる。
それでいて変装術や盗聴術、転移術といったエージェント御用達の魔術を何よりも得意とし、体術を振るえば大の男五人でも制することは出来ない、彼女こそ理想の潜入工作員の一人といえよう。
しかしそんなフレンダであっても、今回下された命令ばかりはそう軽々に受けることが出来ないようだった。
「潜入捜査、ですか。しかしこの、サバトというのは、一体?」
やはり少女らしい、甲高くどこか舌足らずな声で、エージェントは任務の内容を確認する。
眼前に座るのは彼女の上司であり、このような畏まった話し方は当たり前のものなのだが、初潮が来ているかも怪しい小さな女の子がこう堅い口調で話している光景というのは、どこか現実離れした作り物じみた感じを見るものに与えるだろう。
長らくフレンダの上官として働き、主に上層部からの命令を取次ぎ、成功の暁にはその成果を報告する役目を負った件の男にとっても、それは例外ではないようだった。
「魔物の集団というか、結社というか、まあそんなものらしい。魔女や魔人達が集って、なにやら怪しげな実験をしているとか」
「なぜそんな所に私を……。魔物相手なら、聖騎士とか、魔物祓師とか、もっと他に適役があるのでは」
当然予想される質問を受け、上官の男は少し微笑む。
魔物の群れに単身飛び込むという、何処から見ても危険至極、余程の実力者でなければ死にに行くのも同義だと言われたこの任務を見事成功させることが出来れば、フレンダのみならずその上官たる彼の評価も大変に上がるであろうことは想像に難くない。
失敗したとしても、その身をもって神敵たる忌まわしき魔物を討滅したとか何とか言えば、少なくとも処分されることはなかろう。そんな打算的な思いを隠して、男は答えた。
「その魔物の結社、サバトにはいくつか特徴があるらしくてな。魔物の中でも特に魔術、魔導に関心が高いらしい、というのが一つ」
魔術に親しむというだけならば、魔物としてはそう珍しいことでもないし、何よりフレンダを単身送り込む理由たり得ない。もうひとつの理由こそが肝要なのだろう、と彼女は身を乗り出した。
「もうひとつの理由は……サバトに所属する魔物たちは皆、幼い少女のような姿をしているらしいのだ」
ちょうどフレンダ、お前のような。 上官のその言葉を、見た目だけ幼女なエージェントはあきらめ半分な気持ちで聞いていた。
雇われ人である以上、上官の命令に逆らうには職を捨てる覚悟が要る。その見た目のせいでまずまともな食い扶持を得られないフレンダにとっては、死地への旅路も拒みようが無かった。
まあ、危なくなったら魔術で逃げてきていいとは言われているし、今回の任務はサバトの偵察で、戦闘はしなくていいということだったので、渋々やってきたのだったが。
「いやはや、見たところかなりの使い手であられるようだ。貴殿のような魔女が我々、魔王軍第三魔術部隊に加わってくれれば、正に百人力といったところだろうな!」
到着早々、サバトの統括、最強にして最凶にして最恐の魔人、バフォメットに捕まってしまうとは、いよいよ私もヤキがまわったか、とフレンダは既に死を覚悟しかけていた。
事の始まりは数刻前。件のサバトの本拠地らしき建物を特定し、どこか密かに侵入できそうなところを探していたところ、突然強大な魔力を感じた。
振り向くとそこには、獣じみた、毛皮に覆われた両手足と、それとは対照的に極端に露出度を高めた胴体が印象的な、一人の少女がいた。
フレンダは、彼女自身のその見た目故、他人
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