「なあ兄上よ。儂には、カリスマが足りないと思うんじゃ」
休日の昼下がり。僕の膝にお行儀よく座っていたバフォメットさんが、急に妙なことを言い出した。
「サバトの盟主として、儂はもっと威厳ある指導者になりたいのじゃ」
「別に今のままでも、良いと思うんだけどなあ……」
そう言って、頭を軽く撫でる。さらさらの髪を手で梳いてあげると、いつもならバフォメットさんは気持よさそうに目を細めるのだが。
「いいやだめじゃ。君主とは愛されるばかりでなく、恐れられなければならんのじゃ。最近読んだ本に書いてあったのじゃ」
キリッとした表情で、決意を語る。幼い顔立ちに似合わない厳しい顔立ちが、強い意志を伺わせる。こういう時にこそ、バフォメットという種族の強大さを実感させられるのだ。
「でも、儂には一体どうしてカリスマを得ればいいのか、とんと分からんのじゃ……兄上、何か良い方法を知らないか?」
首を反らし、上目遣いに見上げられると、どうしようもなく彼女の力になってあげたくなってしまう。たとえ僕がこのバフォメットの兄でなかったとしても、汚れない瞳の訴えを無視することは出来なかったろう。
「得る、と言っても……口で言うほど簡単なことじゃないだろうしなあ……
既にカリスマが溢れてる人に聞いてみるとか?」
何気なく口にした言葉だったが、それを聞いてバフォメットさんはぴくんと反応した。僕の膝の上から飛び降り、こちらに向き直る。
「なるほど! さすが兄上、いいアイデアじゃ! 早速、聞きに行ってみるのじゃ!」
「え、っちょ、バフォさん!?」
満面の笑みを浮かべる彼女に手を引かれ、否応なくカリスマ探しの旅に同行させられることとなってしまった。
「……なるほどね。話はわかったわ」
「うむ。そなたのカリスマがどのようにして得られたものなのか、教えてはくれまいか?」
バフォさんに連れられて僕らが訪ねたのは、とあるヴァンパイアのところだった。
切れ長の目と真っ赤な瞳、唇の間から覗く牙、月光より白い肌が織り成す凄絶さすら感じさせる美貌、更には卑俗なものを寄せ付けない夜の王としての風格。まさしくカリスマと言うべき存在だ。
「そう言われても、ねぇ。私が吸血鬼なのは元からのことだし」
「ならば今まで、どのようにして生きてきたかだけでも教えてはくれぬか? 儂は、そちのような威厳が、欲しいのじゃ」
ストレートに言われて、ヴァンパイアの顔が少し緩む。バフォメットと吸血鬼、いずれもかなりの力を持つ魔界の大御所である。が、こうして見ていると、まるで年上のおねえさんに遊んでもらいたがっている女の子と、少し困りながらも女の子の相手をしてあげる親戚の少女と言った具合で、どこか微笑ましさすら感じられた。
「どのようにして、っていっても、特に変わったことはないわよ。ずっと一人でいたもの。そんな大層なことなんて」
「一人で?」
「ええ。私は吸血鬼、不死の王。王は孤独であるべきものなのよ。親しまれるものではないわ」
「孤独……。孤独、か……」
「もし私に他者を惹きつける何かがあるとしたら、この王たる在り方ゆえのことかもしれないわね。孤高であるがゆえの貴族、孤高であるがゆえの超越者よ」
「……」
ヴァンパイアの帝王学に、バフォさんはどこか釈然としないものを感じているようだった。
吸血鬼の住処を辞した後。バフォ様は相変わらずの難しい顔で、不満げに呟いた。
「……あれも一つのカリスマ性ではあるんじゃろうが……儂には合わん。サバトの皆や兄上あっての儂じゃ。孤高の統率者になぞ、なりたくないわい」
「ですねえ。一人でじっと静かにしてるバフォさんの姿なんて、見たくありませんよ」
「そう言ってくれるか。……しかし、他にカリスマを持っていそうな魔物というと、何がおるじゃろう?」
「大勢の部下を率いている……アヌビスなんてどうです? 指導者の資質は、申し分ないでしょう」
「……やはり兄上は最高じゃな! 早速会いに行くとしよう!」
余計なことを言ったかとも思ったが、この際だから、とことんバフォさんに付きあおうという気持ちも、確かにあったのだ。
「……なるほどな。話はわかった」
「うむ。そなたの指導力がどのようにして得られたものなのか、教えてはくれまいか?」
バフォさんと共に訪れたのは、とある場所にあったピラミッド。バフォメットという種族のネームバリュー故か、遺跡の守護者にも簡単に面会することが出来た。
眼前の玉座に座るのは、褐色の肌と漆黒の髪が艶めかしいアヌビス。黄金の宝飾品を数多く身につけ、天秤のような造形を施された杖をもつ姿はファラオを守るものとしての矜持に溢れている。
「……カリスマといっても、私のリーダーシップは別に産まれ持ってのもの
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