舐めて啜って骨抜きにして

「えー、あかなめー。垢とらんかねー。あかとりー、あかすりー、きれいにしてやるぞよー」

 ちょっとした買い物の帰り、普段通らない道を通ってみたところ奇妙な童女を見かけた。
 外見年齢は大体十代前半、幼女とも少女ともつかない微妙な雰囲気の女の子。浴衣のような薄手の和服を着て腰に太い帯を巻いているが、服のサイズが合っていないのか、それともそういうデザインなのか、やけに露出度が高い。
 太腿の大胆な露出は、昨今流行りのミニ浴衣のそれに近い。肩幅も、身頃に合っているとは言い難く、せっかくの布がずり落ちそうになっている。そのせいで薄く未発達な胸がはだけ気味で、ちょっとしたはずみでこぼれてしまいそうで危うい。
 肩甲骨に掛かるくらいの黒髪は、まるで風呂あがりのようにしっとりして艶かしい。衣服の腕周りには、いわゆる浴衣と異なり袖を大きくとっているが、その布はよく見るとうっすら透けており、彼女の細い二の腕が見えてしまっている。
 何より異質なのが通行人に呼びかけている言葉。明らかにいかがわしい、何か不道徳なものを連想させる売り文句である。あかすり、だけならまだしも、舐めるとなるとこれはどう考えても風営法に引っかかりそうだ。
 近頃の我が国では、何ら疚しい点が無くとも、幼女に近づいたとか会話したとかいうだけで警察に通報され、最悪取り調べまで受けさせられるのが常識である。
 幼女とは、ただ立っているだけでも成人男性を娑婆から追放せんとする恐ろしい存在であるというのに、風俗店のオプションみたいな半透明のミニ浴衣を着て垢を舐めさせろなどと言っているとなれば、これはもう制服警官やヤクザより警戒すべき存在と言えよう。
 道行く人々もそれをしっかり分かっているようで、童女に声をかけられても、不審そうな視線を向けるだけで返答はしない。
 ちょうど前を通りかかった俺も、彼らに倣おうと思っていた。一体彼女が何なのかはわからないが、きっとまともな存在ではない。関わり合いにならないのが一番だと。

「のう、そこのお兄さんや。妾に垢を舐めさせてみんか」

 思わず立ち止まってしまったのは、童女がやけに時代がかった口調で話しかけてきたからだ。
 年寄りみたいな話し方をする少女なんて、漫画かゲームでしか見られないと思っていたせいで、反応が遅れてしまった。
 一瞬足を止めたのを童女は見逃さず、ここぞとばかりに営業をかけてきた。

「のう、のう兄さん。見たところ、毎日風呂には入っておるようじゃが、それでも垢が結構溜まっておるぞよ。精気と欲望が、渦を巻いとる。さてはお主、独身じゃな」
「な、いきなりなにを……!?」

 声こそ子供らしいものだが、語る内容はまるで遣りて婆。驚きとともに見下ろすと、悟りきったような薄笑い。海千山千、という言葉が脳裏に浮かぶ。ニヤつきながら、女は畳み掛けてくる。

「隠さずともよい。何も取って喰おうとは思っとらん。ささ、こっちへ来ぬか」

 右手を掴まれ、小柄な体格に似つかわしくない力で引っ張られる。向こうの思い通りに、トントン拍子に話が進んでしまっているのは正直に言って恐ろしかったが、あのまま道端で欲望がどうとか話し続けていたらそれこそ捕まる。
 人目の無い路地裏へ引きこまれたのは、そういう点でのみ幸運と言えた。

連れて来られたのはビルとビルの間、奥まった薄暗い行き止まり。おそらく防災上の必要があるのだろう、それなりのスペースは確保されているが、周囲を見回しても窓や扉の類は見当たらない。 俺達の通ってきた路地を抜ける以外にアクセス手段の無い、都会のエアポケットとでも言うべき場所だ。
 ここなら、正義漢たちが警官を呼び寄せることも無いだろう。怪しい女と二人きりになって、ようやく俺は落ち着いて相手を観察できるようになった。
 背丈は俺の胸より少し低いくらい。ぱっと見ただけでは普通の人間と変りないが、近くに池も川もないあんな道端で髪を濡らしているのは不自然だ。
 しかも濡れているのは髪だけではなく、着物もだ。薄手の布はもともとシースルー素材というわけではなく、どうも水に浸かったことで今のように扇情的になってしまっているらしい。
 髪と着物がしっとり湿っているのに、手や顔はさほど濡れていない。訝しむ俺に、童女は更に驚くべきものを突きつけた。

「では、早速垢を取ってやろう……と、言いたいところじゃが。お主にこれが、耐えられるかな……?」

 小さな口をパカっと開くと、中から紅い、巨大な触手のようなものが出てきたのだ。
 いや、触手などではない。恐怖のあまり思わず逃げ出しかけたが、よく見るとそれは舌だ。
 ただ、普通の人間のものよりも遥かに長い。
 ずずずっと俺の腕と同じくらいの長さまで伸びたそれは、どう考えても少女の口の中には収まりきらない筈だ。


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