照りつける日差しが眩しくて、目が覚めた。
眼前に広がるのは青い空と白い雲。
そして聞こえてくるのは心地の良い波の音。
ここは・・・どこだ?
少なくとも自宅じゃない事は確かだ。
俺の家はこんな壁どころか柱1本すらない開放的な造りはしてないし、太陽ギラギラでじっとしていても汗ばむほど暑い南国チックなところになんて住んでいなかったはずだ。
あと、なんで俺はスーツを着てるんだ?
周りを見渡すと、俺のほかにもスーツにネクタイでビシっと決めた男数十人が横たわっている。
南国の浜辺に謎のスーツ男集団がお昼寝中・・・、なんだこの状況?
・・・ん?スーツ?
あー、だんだん思い出してきた。
大学を卒業した俺は就活氷河期の洗礼をモロに受けていた。
何十単位で面接を受けに行くもどこも不採用。
本格的に『自分の存在価値』を真面目に考え始めるぐらいに病み始めた頃、ある企業の求人広告が目に飛び込んできた。
『人材求む!誰でもできる!初心者でも安心!面倒な履歴書必要なし!アットホームな職場です!』
思いつく限りの胡散臭い言葉で埋め尽くされた広告を見て「うわぁ・・・」と思いつつも、俺は気付けばその企業に電話をかけていた。
正直、もう採用してくれるならどこでもいいと思っていたし、延々と続く就活地獄の影響で『求人を見たらすぐ行動!』と脳内に刷り込まれていたせいかもしれない。
面接当日、何度も着ずぎて愛着すら湧いてきた、お馴染みのリクルートスーツに身を包んだ俺は「今度こそは!」と気合を入れて指定されたビルに足を踏み込み・・・そこからの記憶がない。
そうだ、俺は就活で面接に来ていたんだ。
なのに今こうして南国の浜辺で爆睡・・・なして?
「はーい!みなさーん、おはよーございまーす!!」
突如、拡声器を持った女の声が波の音を消し去った。
この声に寝ていた奴らも目を覚まし始める。
「本日は我が社の面接にお越しいただきありがとーごさいまーす!!私はこの会社の社長のヒルダっていいまーす!よろしくねー!!」
キンキンと甲高い声が寝起きの頭に響く。
この一見馬鹿そうな女が社長?
マジで選ぶ会社間違えたかもしれん。
「突然こんな南の島に連れてきてごめんねー!?みなさんにはこれから入社試験をしてもらいまーす!ルールは超カンタン!うちの社員と『鬼ごっこ』をしてもらいまーす!捕まったら即☆入社決定―!制限時間まで逃げきれたら残念☆今後のご活躍を心よりお祈り申し上げまーす!」
なんだそのふざけた入社試験・・・。
ん?
捕まったら採用なの?
内容は置いといて、普通逆じゃね?
「あのー、捕まったら入社なんですか?」
俺のほかにも疑問に思った奴がいたのか、そんな質問が就活生の中から聞こえた。
「もっちろーん!捕まっちゃった人は皆まとめて採用だよー!定員なしの一斉採用だから頑張って逃げてねー!!」
どうやら聞き間違いではないらしい。
「え、それって本当に簡単じゃね?自分から捕まりにいけばいいってことだよな?」
「よっしゃー!ようやくこの就活地獄から抜け出せる!」
「田舎のお母ちゃん、お父ちゃん・・・俺、やっと仕事決まったよ・・・。」
「有名国立大学を卒業したこの僕に相応しい企業かは疑問ですが・・・まぁ、とりあえず採用されてあげましょうかね!」
「Zzzz・・・。」
各々すでに採用が決まったかのように喜んでいる。
確かにこの条件なら全員採用ってこともあり得るだろうな。
わざわざ面接を受けに来ているわけだし、間違ったって制限時間まで逃げ続けるヤツなんていないだろうし。
つーか、まだ寝てるヤツいたな!?
「うんうん☆みなさんのやる気が見て取れて私うれしいよー!じゃあ、鬼役を務めるうちの社員を紹介するよー!カモーン!!」
合図とともに浜辺に停泊していた船からビジネススーツの美女集団がぞろぞろと出てきた。
浜辺にスーツの集団が2組というこの状況も異様なのだが、鬼役の集団はさらに異様な雰囲気だった。
皆一様に頬を赤らめ、目を細めて恍惚の吐息を漏らしており、それでいて若干血走った双眸から発せられた視線は俺達を絡めとって離さない。
そして特に目を引いたのは彼女たちの容姿である。
肌の青い者、尻尾の生えた者、羽根の生えた者、下半身が蛇の者・・・。
そう、鬼役の社員は全員が魔物娘だったのである。
「彼女たちが私の可愛い部下ちゃんたちでーす!捕まえたあとは煮るなり焼くなり好きにしていいって言ってあるから、みなさん頑張ってねー!!」
「ちょっと待ったぁーーーー!!!」
思わず声を荒らげてしまった。
「魔物娘と鬼ごっことか嫌な予感しかしないんですけど!?捕まったら即採用なんじゃないんですか!?俺たちのこと騙し
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