「はいよ、小籠包とラーメンね。」
「ありがとうね。」
「おーい兄ちゃん!こっちまだかよ!」
「ちょっと待っててください。俺の身体は一つしかないんだからそんないっぺんに運べないですよ。」
「こっちビール2本追加で。あと適当につまみ頼むわ。」
「飲み過ぎですよ。後うちは呑み屋じゃなくて定食屋なんですけど。」
ここは東のとある街。
昼は露店の商人達の活気ある売り文句が飛び交い、夜になると酔っ払いの怒号や愚痴が聞こえてくる、どこにでもある普通の街。
その一画にある小さな中華料理店。
客入りは多くなく少なく、毎日一人は常連の顔があり店主の料理に舌鼓を打っている。
おすすめは店主自慢の中華まん。
そんな店があったそうな。
「大将も随分この街が似合うようになってきたじゃねぇか。」
「お陰様でね。儲からせてもらってます。」
「2年前にここで店を開くって聞いた時はどうなることかと思ったけど、案外続いてて嬉しいよ。」
俺の名前は九十九(つくも)、この店の店主をしている。
元々俺はこの街の人間ではない。
2年前にふらっとこの街にやってきた流れ者だ。
商売が軌道に乗り、ここまで来るは様々なことがあったが何とかやっていくことができた。
始めこそ右も左も分からない状態だったが今ではこの店の店主としての生活がすっかり板についてきている。
慣れなかった敬語も何とか使いこなすことができるようになった。
今では自分の料理を食べておいしいと言ってもらえる、それが俺の中では楽しみの一つになっていて、日々を生きる俺の原動力にもなっている。
「き、厳しいですね。こっち商売も料理も半人前のペーペーなんですからもう少しお手柔らかに頼みますよ。」
従業員は俺1人。
調理からホールまで一人でこなさなくてはいけないから、営業中はいつもてんてこ舞い。
少しずつ繁盛してきたことだし一人くらい人を増やしてもいいとは思っているのだけど、まだ店を立てた時の借金は残っているし今でもギリギリやりくりできている状態だ。
だからせめて借金を返し終わるまでは一人で頑張ろうというのが俺の勝手に決めている。
「そうかい?これでも店主の料理を評価しているんだけどね。若いのに、大したもんだよ。」
「そうだねぇ。ここにいる奴ら以外にも知った顔が増えてきたことだし、開店当初から来てる俺たちとしても嬉しいことだねぇ。」
「いや、常連と言えばまだ来てない奴がいるだろ?」
「あー、もうそんな時間ですか。」
時計を一瞥し、時間を確認してから俺は深くため息ついた。
いくら常連の客といえど、流石に毎日やってくる訳ではない。
しかしただ一人だけ、毎日必ずこの店にやってくる奴がいた。
一日に何回も来る日もあり、休日などひどい時には10回以上も来ることもある変わり者。
いつも扉を壊さんばかりの勢いで蹴り開け、大声をあげてやってくる・・・。
「たのもーーー!!!」
燃えるように熱い志を持った女の子がいた。
「お前は何度その戸を壊すつもりだ?今お前が蹴ったやつでもう5枚目になるんだが?」
「私がお金出して直してもらったんだからこの戸は私のものだ!お前にどうこう言われる筋合いはない!」
「お前、辞書で『弁償』って言葉を1回調べて来いよ。」
燃え盛る真っ赤な毛皮を持つ持魔物の彼女の名前はシャオメイ。
彼女も俺と同じでこの街にやってきた流れ者だ。
「九十九!今日こそ私と勝負をしてもらう!表に出ろ!」
「見て分かんないのか?万年ニートのお前と違って、今俺は仕事で忙しいんだよ。」
「この前からまたバイトし始めたからニートじゃない!」
「お前、その前のバイトが続いたのって何日間だっけ?」
「5日だ!」
シャオメイは1年前にこの街にやってきた。いや、俺を追ってこの街に来たというのが正しいらしい。
それからというもの、今みたいに毎日のように俺に勝負を吹っかけてくる、正直言ってウザい奴だ。
「市場で聞いたぞ。また客を殴ったんだってな。」
「だってあの客が悪いんだぞ!バイトだからって足元見やがって!だから殴ってやった、私は悪くない!」
「よくそんな悪びれもせず堂々と言い張れるな。」
「うるさい!そもそも私にはあんな仕事合わなかったんだ!そんなことより勝負だ!仕事が終わるまで待ってやるからさっさと終わらせてかかってこい!」
「嫌だよ面倒くさい。」
いつも二言目には『勝負』『勝負』と、とにかく俺と戦うことしか頭にないらしくその度に俺はそれを断り続けるのに手を焼いている。
ぶっちゃけ料理している時やその日の売り上げなんかを計算している時よりも、こいつの相手をしている時も方が一番疲れる。
「まあまあシャオメイちゃん。そんなに声を荒らげなくてもいいじゃないか。」
「これは私と九十九との問題だ!外野は黙って見てろ!」
「シャオメイちゃん、中華まん食べ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6 7]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想