「ないわー。」
「どうしたんだい?そんなに浮かない顔をして。気分でも悪いのかい?」
1ヵ月前、俺は女の子に告白をした。
相手は俺と同じ学校の先輩で男女問わず人望のある『人』で、正直俺には高嶺の花だった。
「いえ。ちょっと初デートの時を思い出していまして。」
「ああ、あの日のことか。いやはや、あの日は私にとってとても幸せな日だったよ。君もそうだったろう?」
フラれて当たり前、ダメでもともと。玉砕覚悟だった。
でも勇気を出して告白した結果、なんと付き合うことができたのだ!
「いや、俺としては『喜び』って言うよりは『驚き』ってのが大きくてそれどころじゃなかったんですけどね。」
「なに?確かに私は異性とデートをするのは初めてだったが、君に失礼を働いたつもりはなかったのだが?」
幸せだったな。
今思えばあれが俺の人生の幸せの絶頂だったのかもしれない。
「そういうことじゃないです。先輩の振る舞いはとても素敵でした。でも・・・。」
しかし初めてのデートの日。
事件は起こった。
「頭にそんなデカいキノコ生やして来たら誰だって驚きますよ。」
初デートで『人間』だった彼女が『人間』辞めて来た。
もうね、驚きってレベルじゃなかった。
開いた口が塞がらないとか、目が点になるってことわざを実際に体験しましたからね?
「仕方無いだろう。服屋でたまたま試着した帽子がマッドハッタ―製の帽子だったのだから。」
「何でそんな帽子被っちゃったんですか・・・?」
「ふむ、私はただ店員さんに『私に似合う帽子はないですか?』と尋ねて、勧められたものを試着しただけなのだがね。」
先輩は男女問わず人気がある。
それは先輩が端麗な顔立ちをしていたなどの理由もあるが、魔物化する前から立ち振る舞いが紳士的だったこともある。
俗に言う男装の麗人と言うやつだ。
それに加えて服装も女の子っぽくなく、スカート姿の私服など見たことがない。
店員さんが男と間違えるのも無理はないかもしれないけど。
「まあ、男になってしまったわけでもなし、魔物化しまったものは仕方が無いさ。もっとも、私は男になっても君を愛し続けられる自信があるがね。」
ゾッとすることを言わないでほしい。
「そもそも何で先輩はそんなに落ち着いていられるんですか?普通もっと慌てふためくでしょうよ。」
「そうでもないさ。これでも内心ひどく困惑しているのよ。」
「そのわりには初デートの日も淡々としていたような気がするのですが?」
「それはあれさ。デート自体は初めてじゃなかったからね。」
え、ナニソレ?初耳なのですが?
「さっき言っただろう。『異性』とデートするのは初めてだ、とね。」
「え!?ちょ!?え!?」
「はは、落ち着きたまえ。君と『する』まで確かに私は処女だったよ。」
「知ってるよ!ってかそこじゃないですよ!」
「おや?知っていたのかい?あまり血も出なかったし、あの時は薄暗かったから君は知らないのかと思っていたよ。まぁ私が同性も含めて『した』のは君が初めてとも言っていないがね。膜があっても同性同士ならできないこともないからさ。」
「生々しいこと言わないで下さいよ!そしてどっちなんですか!?」
俺はこんな感じで先輩の手の平で転がされてばかりだ。
追求しようとしても、のらりくらりと躱されて先輩のペースに流されてばかりいる。
いつも優雅に笑って俺をからかってくる。
それは魔物化する前から変わらない。
実際そんな先輩に惚れちゃったってところもあるんだよな。
「はぁ。何というか、先輩は変わりませんね。」
「そうさ。私は変わらないよ。魔物になっても、私が君を愛するこの気持ちは変わらないさ。これからどれだけの時間が経っても、これだけは変わらない。それほどに私は君のことを好きになってしまったからね。」
変わらない。
こんな歯の浮く様な台詞を淡々と言ってしまうところも、実は少し恥ずかしいのか微かに頬が赤らんでしまっているとこをも。
先輩は変わらない。
俺も、先輩のことを思うこの気持ちは変わらないだろう。
「さっきの話を蒸し返すけどね、初めてが誰かなんて、些細な事は別にいいんじゃないかって私は思うのさ。大事なのは今誰のことを愛しているのかだ、とね。私は誓うよ。これから一生、未来永劫君のことを愛し続けると。私の心はずっと君だけのものさ。愛しているよ、後輩くん。」
これじゃ、どっちが告白したんだか分からないな。
でも、これもいいかもしれない。
これからも変わらず先輩はこんな風に歯の浮く様な告白まがいのことを言い続けるだろう。
「先輩。」
「なんだい?」
でもそれじゃ少し悔しいから。
「俺も、ずっと先輩のこと愛していますよ。」
だから俺も変
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