You give love a bad name

 早い時間でもすっかり暗くなった道を職場から歩いて自宅に帰り、いつものように部屋でギターの練習をしていると、友人から電話が来た。
「なぁなぁ、夢を見に行かないか?」
「いいよお前らで行ってこいよ。俺は次のオーディションにかけてんだ」
「またかよ……お前そろそろ諦めて社会人したらどうよ?」
「うるせえ大きなお世話だ。俺はこのギターで世界に出るんだよ」
「ああそうかい……」
 夢を見に行く、とは別に寝るわけでもなければクスリをキメるわけでもない。最近近くに出来た複合施設、Dreamsに行く事を言う。この世に居るとは思えないほどの美人たちが間近で見れて、かつ優しく接客してくれるとのことらしく――接客業なら店員が優しいのは当たり前の話なのだが――あいつらは暇があれば通っている。
 俺だってそれを聞いて興味を持たなかったわけではない。今やってるギターだって、始めたきっかけは女の子にモテたいからだ。ただ、ある程度初めて来るとギターを触ることそのものが楽しくなってくる。切れそうな弦を張り替える作業だけでも嬉しくなるし、新しい音を求めて楽器屋やCDショップに向かう日も増え、いつの間にか引きこもってギター弾いてばかりの日々を送るようになった。
 その結果腕は間違いなく上達していくし、新しいフレーズやテクニックを覚えると使いたくて仕方なくなり、挙句自分で作曲するためにパソコンやソフトなどを一式揃えていた。既に何曲かは動画サイトに上げているが、再生数は……聞かないで欲しい。
 だからというべきか、今は音楽以外に金と時間を使うことを極力避けている。気付けば大好きだったカラオケも、楽しかったはずの友人との語らいも面倒くさがるようになってしまった。これではいけない、誘ってくれる友人たちにも悪いと思いつつもなかなか変えられず、ただひとり虚しくギターを弾く日々を送っていた。
「本当は行きたいはずなのになぁ……」
 今の世の中、底辺を這いずり回ると言われているフリーターなんてごまんといる。夢を叶えるため、就職できなかった、あるいはしたくなかったためと、個人により理由は様々あるだろう。自分だってこのままでいいなんて思っていないし、抜け出す術はわかっているはずなのに、それでもまだ半端に燻っている夢を捨てきれずにいる。
「……あいつらにはああいったけど、就職しないとなぁ……」
 ひとりごちるも、一日のメニューをこなさないまま寝るわけにもいかず、ひたすらギターと格闘していた。

 だがそれからしばらくして、俺はDreamsに行くことになった。とは言っても遊びに行くわけではなく――いや、ある意味では遊びのようなものだが――とあるバンドが参加するライブにゲストとして出演するためだ。きっかけは、主催者がたまたま俺ととあるサイトで繋がったことから。ちなみにこのライブ、出演する際の規定が客集めできるかどうかではなく、童貞かどうか、また現在恋人がいないかどうかというのが含まれていたのがよくわからなかった。まぁ、あそこはもともと儲けは度外視らしいからかも知れないが、それにしたって某音楽利権会社への支払いとかどうしてるんだろうか。俺が心配することでもないか。

 ライブ当日を向かえ、リハーサルも問題なく終了、後は本番を待つだけ。開演前のスタンバイ中に、こっそりステージ脇から覗いてみる。
「さて、お客さんの入りようは……おぉう!?」
 リハーサルの時には見かけなかったが、どうやら相当の大物でも来るのだろうか。キャパ150人と聞いていたこの箱がほぼ満員に近い状態だった。俺自身ライブ経験がないわけではないが、これだけのお客さんを前にするのは初めてで流石に緊張する。普段はスッカスカの箱で、アコギを抱えて虚しく弾き語りをするばかりなのに。
「お、どうやら相当盛り上がってるな、まだ始まる前だってのに」
「そりゃそうでしょ。今日やるセットリストでたぎらないロックファンはいないわよ」
 後ろから一緒に覗きに来たのか、このライブを主催した夫婦が俺の後ろに居た。ちなみに俺が彼らと知り合った時には、こんなライブを主催し、かつ何度も成功させているなど知らなかった。まぁ、俺が音楽を捨てきれずにいることをふと漏らしたから呼んでくれたのだろう。
「ヤッホ。逃げずに来たようで何よりだ」
「まぁ、来るっていった以上はね」
 ちなみに、まぁこんなところを使う以上、この人の嫁さんも魔物娘だ。異界から現れたリリムらしいが、もはや元々こっちに住んでたんじゃないかと思うくらい人間社会に馴染んでいる。
「しかし、客集めできるかどうかは関係ないって言ってたのは、誰か大物でも来るのか?」
「いんや、そういうわけじゃない。元々こういう連中の行き場が少ないし、人間社会のイベントだと彼女たちじゃちょっと窮屈な思いをしなきゃならんだろ?」

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