Sword summit

その昔、魔王がまだ猛々しくあった頃の話である。とある国に仕える一人の女騎士がいた。彼女は聡明で見目麗しく、また強く気高くもあった。その性根と実力から成された数々の偉業は、騎士団やその国の民だけではなく、周辺の国家からも羨望を受けるほどであった。

曰く、平民の地を荒らす邪龍を屈服させて守り神として人々と共にある幸せを教えた。
曰く、魔物の大軍に国境を荒らされれば一人で殲滅した。
曰く、当時の専門家が誰も解読できなかった古文書を解読し、解説書まで作り上げた。
曰く、生き様の美しさは聖霊ですら彼女を愛した。

彼女は生きる伝説となり、その死後に後世まで語り継がれる世界が認める英雄となった。
しかしそんな彼女でも、叶えたかったただ一つの願いだけは手にできなかったという。それは彼女の生き方が、周囲の期待が、そして時代が許してはくれなかった。あまりに大きすぎる様々な偉業のためか、国のために生きることを強いられ、彼女自身もまた、それを誇りとしていたからであり、そのために彼女自身、死ぬ間際までその想いを忘れていたからである。


時は過ぎ、彼女の死後数百年。魔王の代が変わり、世界の魔物が美しくまた愛らしい人間の女性に近くなるといった異変が起こった。そんな魔物達は魔物娘と呼ばれ、人間の男性と結ばれて愛し合うようになる。これはそんな狂乱の世界改変からまた数十年経った頃の話になる。
一人の女性が、いや、魔物が彼女の眠る墓に現れた。世界で最も偉大な英雄として名高い彼女の墓は、現在の世界に大きな影響を与える主神教団によって厳重に管理されている。見知らぬ人間が許可なく入ろうものなら、そこを守護する騎士団によって即座に処刑されても文句が言えないほどだ。しかしこの魔物は悠々と墓に近付き、あろうことかその骨と遺品が埋まっているであろう土の上に立ち、墓に対して教団が配布する経典通りの礼をした。
「……あなたの伝説、調べさせてもらったわ。眉唾物もあるだろうと思っていたけど、まさかほとんどが事実だったとはね。やはり神代と呼ばれる時代に生きた人間は恐ろしいものね」
その言葉は未だ眠る彼女に対するものだろうか。それとも魔物自身が吐きたくなった何かだったのだろうか。
「確かに凄いけど、でも一つだけ許せないものがあったわ。あなたが知らないまま亡くなったことが許せないものが」
誰に聞かせるわけでもないであろうに、勿体つけた話し方をする彼女。
「それはあなた自身が後世に血脈を残さなかったこと。生き物として、人間としての幸せを知らないまま亡くなったこと。私は……いや、私達はそれすら許さなかった当時の政治家達を許せないし、そしてそれをよしとしていたあなた自身も許せない」
語る毎に感情がこもり、魔物の周囲に魔力によって立ち上る靄のようなものが見え隠れし始めた。
「でもあなたは、この世界では幸せになれない。あまりにも神格化されすぎて、あなたを受け入れてくれるであろう男の子はいない。だから私はあなたを、違う世界へと送ってあげる。これは私の我が儘だけど、諦めて受け入れて頂戴な」
そして立ち上る魔力を右の掌に込めると、球体状になったそれは魔物自身が自慢にしている胸部の膨らみよりも大きくなった。
「さぁ……目眩く幸悦と愛欲の世界へ、いざ!」
そしてそれを放った時、あるべきものがあるべき場所からなくなった。騒ぎになったのは、彼女の生誕祭の準備に入ったときだったが、誰しもが魔物の仕業であると思いつつ、誰一人として一体誰がやったのかわからずじまいであった。


所変わって現代日本のとある市街。こちらにはいつの間にか魔物世界とのゲートが繋がった影響で、魔物娘達が少しずつ暮らしやすいように様々な法整備や施設ができつつある。元々それほど大した名物もないこの地では、街起こしの一環として彼女達も市民として認めるように国に働きかけたところ、人工増加策がなかった政府が願ったりかなったりとばかりに承認したことで帰化する魔物娘達も後を立たない。過疎化を辿るかと思われたこの街は急激な人工増加により発展を遂げ、魔物娘バブルとまで呼ばれるようになる。巨大なアミューズメント施設である「Dreams」建設が認められたのもこのためだ。今や日本における大都市として、世界各国からも観光客が集まるようになってきた。
そして今、そんな街に生きる一人の青年が、疲れた顔をして深夜自転車に乗って自宅へと家路を辿っていた。
「はぁ……どいつもこいつもみんな美人さんと結婚して子供もいて毎日楽しそうだってのに、なんで俺はまだ一人でこんなに疲れる想いをしなきゃならんのだ」
誰一人として聞いていないつぶやきを夜空に吐き出しながら、ひたすら自転車を漕ぎ続ける青年。特筆すべき見た目の特徴が特になく、ごくごく一般的な青年と
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33