Vampire Rose

 不死者の国の一画に建てられた邸の一室。カーミラの私室の扉の前に彼が立っている。ノックをし、暫く待つ。彼は返事が無いことを確認すると扉を開け、部屋へ入った。灯りは淡い月明かりのみである部屋は薄暗く、暗がりは目を凝らさなければ見ることも難しい。目が暗闇に馴れると、彼はベッドへ近付いた。ベッドには彼の主人であるヴァンパイアのカーミラが眠っている。
 彼はカーミラの側に寄ると、彼女の寝顔を覗き見た。ヴァンパイア特有の傲慢さも今は鳴りを潜め、まるで眠り人形の様な穏やかさを感じられた。彼はカーミラの髪に触れた。金糸を思わせる髪は東方から伝わる絹の様に滑らかに滑り、僅かに甘い芳香を漂わせる。それだけで彼は自らのぺニスが勃起するのが分かった。思い出されるのは、首筋に犬歯を突き立てようとするカーミラの姿だった。
「まるで盛りの付いた犬ね」
 こちらを見下す声色でカーミラが言った。彼は急ぎカーミラから身体を離すと謝罪し、頭を下げた。ヴァンパイアであるカーミラは貴族、未だ人間の身である自分は召使い。弁えるべき分という物を彼は思い出す。
「…いいわ、頭を上げなさい」
 幾らか呆れの籠った声色でカーミラが言った。彼が恐る恐る頭を上げると、カーミラは既にベッドから降りていた。
「着替えさせなさい」
 そう言われ、彼はカーミラの着替えに掛かった。不用意にカーミラの身体を触らぬよう、注意を払いながらネグリジェを脱がせる。月光の下に晒されたカーミラの裸体は白磁を思わせる白さだ。乳房は小ぶりだが形は美しく、薄桃色の頂点はつんと起っている。臀部も乳房と同じく肉置きが薄いが、程好く締まり美しい曲線を魅せ、ぴたりと閉じたヴァギナには薄く陰毛が生えている。
 見まいと意識しても視界に映る肢体に、彼は頬を赤らめた。そして、カーミラはそんな彼の様子を僅かに熱を帯びた目で見ているだけだった。

 カーミラが両親から拝領した邸には、実質カーミラと彼の二人だけが住んでいると言える。調理や邸の手入れは、彼だけでなく雇われのゴーストやスケルトンも行っているが、彼女らは仕事を最低限こなすとそれぞれの自宅に急ぐ為だ。
 彼は食器類をワゴンに乗せると、それを厨房に下げた。厨房にはゴーストが一人、所在無さげに漂っている。どうやら今日は彼女が片付けの当番らしい。彼はゴーストに食器類をワゴンごと渡すと片付けを頼んだ。
「これが済んだら、今日は上がらせてもらいますね」
 そう言っててきぱきと洗い物を始めたゴーストを尻目に、彼はカーミラの元へ急いだ。カーミラの食事はまだ終わっていない。
「遅いわ」
 彼を出迎えたのは端的な一言だった。そして、彼が謝ろうとするよりも早く、カーミラが指を動かして側へ来るように指示をした。彼はカーミラの元へ近付くと首筋を差し出した。カーミラは彼の首筋に顔を埋めると小さく鼻を鳴らした。
「貴方、まだインキュバスになっていないのね。少し人臭いわ」
 カーミラはそう言うと、彼の首筋に舌を這わせた。舐め上げられ唾液を塗られた部分が外気に触れると、ひやりとした快感が背を走った。そして、次に感じたのはカーミラの唇の柔らかさ、首筋と血管を貫く犬歯の鋭さ、そして溢れ出る血の温かさだった。
 痛みは無い。吸い出される血と引き換えにヴァンパイアの魔力が流し込まれ、吸血による退廃的な快楽が彼の身体を蝕んで行く。首筋にかかるカーミラの息遣いが熱を帯び始め、荒くなっていくのを彼は感じた。自分の様な身の人間の血に、主人は快楽を感じていてくれている。彼の胸中に喜悦が満ちた。その喜悦は主従を越えた愛となって、彼の身体を動かした。両の腕がカーミラの肩に回され、その細い身体を抱き締める。
 びくりと身体を震わせたカーミラは、首筋から口を離すと軽く彼の身体を押した。それだけで彼は尻餅を突いて後ろへ倒れた。カーミラは彼へ背を向けると、一瞥すること無く言った。
「…出過ぎた真似は止めなさい」
 それだけを言うと、カーミラは足早にその場を離れた。後に残されたのは、呆然と尻餅を突いたままの彼だけだった。またやってしまった、という後悔が彼の胸中に影を差した。だが、翼に隠された向うで、うなじまで赤く染めたカーミラの顔が快楽に歪んでいることを彼は知る由も無い。

 一日の勤めを終えてベッドの中で微睡みに落ちかけた頃、彼は強い視線を感じた。不審に思い頭を横に向けると、怪しく光る紅い双眸が彼を見下ろしている。よくよく目を凝らして見れば、それはカーミラだと分かった。そして、肉欲を孕んだカーミラの瞳は逸らされること無く彼を見据えている。
「貴方、溜まっているの?」
 唐突な問い掛けに彼は目を瞬かせることしか出来なかった。だが、カーミラが急かすように再度問い掛けると、彼は顔を赤らめながら頷いた。それを見たカーミラは唇の端を僅かに吊
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