男が目を覚ますと、そこは石壁の見慣れない部屋だった。窓一つない部屋は暗く、視線の先には火が灯された長い蝋燭が一本あるだけで他には何も無い。男はまずはこの状況を理解するために部屋を調べようと考え、腰を上げようとした。だが、抑え付けられる様な感覚を覚えた。鞣し革のベルトで手足と腰が椅子に縛り付けられている。痛みこそ無いがベルトは固く、まず人の力では外せそうにないだろう。
それでもこの拘束を解こうと悶えていると、男はこの部屋に自分以外の誰かが居ることに気付いた。床を這う様な音と、小さくとも分かる程に熱が籠った吐息の音が後ろからゆっくりと近付いてくる。そして、その音の主は真後ろに着くと動きを止めた。部屋には二つの吐息の音だけがこだましている。
「おはよう」
この吐息の音だけが支配する空間を打ち破ったのは女の声だった。男は後ろに居る女の姿を確かめようとするが、まるで油の切れたブリキ人形の様に首の動きはぎこちない。そして、首が真横を向こうとする直前、頬に手が当てられた。猛禽の脚の様な爪と表皮を持つ手だ。その手に押されるがまま前を向くと、頬を撫でられた。猛禽の様でありながらもひやりとした手のひらが頬や喉元を撫でると、まるで蛇が柔柔と巻き付いて来るかの様な錯覚さえ覚えた。
一頻り触り心地を楽しんだのか手が後ろに引っ込むと、カチャリと何かが外れる音が聞こえた。そして、再びあの手が男の眼前にやって来ると、何かを持っていることが分かった。それは瞳を模した仮面だ。眼前の手は仮面の向きを変えると男にその仮面を被せ、後頭部の辺りで固定した。しかし、それは仮面とは名ばかりで、視界を確保する穴は無い。実質の目隠しだ。今は、あの蝋燭の灯りでさえ見ることは叶わない。
突然、男は後頭部から首筋にかけて言い表すことが出来ない熱を感じた。その熱は、痛みではなく恍惚を伴っている。やがて、その熱と恍惚による快楽が血の巡りに乗って頭と下腹部へ達すると、思考をぼやけさせ、はち切れんばかりにぺニスを勃起させた。
後ろに居た誰かは、這う様な音を立てながら前に移動した。あの筆舌に尽くしがたい熱は今はぺニスから生じ、絶えず暴力的なまでの快楽を与えている。だが、男が果てることはなかった。下着の中は先走りで滑り、ズボンに染みを作っているのみだ。
ズボンの留め具が外されると、下着ごと脱がされた。むっとした鼻を突く臭いが届くと同時に、ぺニスに籠った熱が高まるのを男は感じた。それだけで辺りに撒き散らされる臭いが更に強まる。すると、男は股座に自分以外の体温と息遣いを感じた。ゆっくりと深く吸い込む様な呼吸は、しだいに早くなっていく。あろうことか、女は股座に顔を埋めて先走りに濡れたぺニスの臭いを嗅ぐことで興奮しているのだ。
常人であれば嫌悪感の一つでも沸くかもしれない状況だが、男のぺニスはいきり立ったままだ。今、何かがぺニスに触れたならそれだけで果ててしまうかもしれない。そう思った矢先、人の物とは違う細い舌がぺニスを舐め上げた。それだけで腰は独りでにガクガクと震え、精液を迸らせた。まるで内臓が溶け出てしまったかの様な量と勢いに息を荒げていると、粘りを帯びた水音と何かを啜る音が聞こえた。妖しい赤い光を孕んだ瞳を持つ女の顔には大量の精液がぶちまけられており、女がそれを舐め取っているのだ。
鼻筋を伝って唇へと垂れ落ちる精液を舐め取り、わざとらしく音を立てて啜ると女は言った。
「まるで変態ね」
毒に犯された身体は、それだけで再びぺニスを勃起させるのだった。
精液臭い吐息の音が耳元で聞こえる。再び後ろに回った女は男の耳元に口を寄せると荒い息で耳を犯しながら、唇をあの細長い舌で舐めた。皺の一つ一つを舌先で引っ掻き、全体を舐めたと思えば固く閉ざした唇の間に割って入ろうと暴れる。その行為の全てがぼやけた思考をさらに蕩けさせる。
「…ふぅ」
針の様に細められた息が耳の中に吹き込まれた。毒に犯され蕩けきった頭はそのこそばゆささえ性的な快楽と認知し、弛緩しきった身体を小さく痙攣させた。
男が断続的に耳を犯してくる息に耐えていると、舌が耳に当てられた。女の舌はまるで蛇の様に耳介の窪みをのたうち回り、耳を唾液濡れにしていく。そこから生じる水音は鼓膜を愛撫し、思考だけでなく脳そのものさえも溶かしてしまうのではと思う程に婬猥だった。そして、その婬猥な水音が聞こえる度に震えるぺニスの周りを柔かな羽毛が撫でた。その羽毛はまるでしなやかに動く尾に操られているかの如く、毛先だけで内腿と下腹を刺激して微細な快楽を生み出している。
「射精、したい?」
その一言は新たな毒となって、思考を放棄した男の脳にじわじわと染み渡る。かつて無いほどに強かったあの射精感を思い出し、ガクガクと震える様に男が頷くと女は言った。
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