とある「中華料理屋」の日常


 第二宇宙爆発も、温暖化による海水面上昇も、巨大隕石落下も、宇宙人や海底人が侵攻してくるなんてことはなかった世界。順調に人口は数を増やし人類は栄華を極めているそんな世界。空には巨大なジェット飛行機、海には超巨大タンカー、地を埋め尽くすはたくさんの自動車や線路を滑走する電車。町を歩く人々は片手間に小型化した電子端末を触ってナビゲーションのアプリを起動させたり写真を撮ったり共有アプリにあげたりして各々が楽しんで笑ったり泣いたり憤慨している世界。

 まさに私たちの世界となんら変わらない世界に見えるが、しかし少しだけ違った世界。

 空を見ればはるか上空を飛ぶ飛行機のシルエットをさえぎる黒い影が何体もみえる。人の手足が鳥の翼や足になったハーピーの女の子達だ。赤い帽子と赤い鞄には地上でバイクを駆る人間の郵便屋さんのものと同じマークの入ったものだ。忙し忙しと飛び回っては各家庭の投函箱に郵便物をほいほいと入れていくのを見ているととても働き者だなと感心してしまう。
 地を見れば車に混ざってアスファルトをかける半人半馬のケンタウロスの女の子や、畑や田んぼを見れば白い蛇体を下半身に持つラミアの女の子、半人半牛のミノタウロスの女の子や半人半羊のワーシープの女の子が牧場の手伝いをしている。巡回のパトカーの運転席は人間の男性警官で助手席には健康的な黒肌のエジプト人のような女性警官が乗っているがやはり彼女も人間ではなく、頭の天辺には三角の鋭角な黒毛の獣の耳が事あるごとにぴこぴこ揺れている。ゆっくり走るパトカーに手を振る親子ににこやかに手をふった女性警官の手は黒毛の獣みたいな大きな手であった。アヌビスという種族らしい。街頭のテレビに映される異種格闘技戦では人間と人間の熱い戦いが行っているが、前試合のダイジェストの小窓では人間対鬼の女性との激しい戦いが流されていた。
 海を見れば海岸沿いの家々は海に直結する水路があり、それぞれの水路の小道からは大なり小なりの海洋生物と人間の特徴が合わさった女性たちが海へと向かって泳ぎ散っていく。

 それぞれ人にはない種族特有の技能をフル活用してこの世界になじむ彼女たちは一般に魔物娘といい、はるか昔に魔王が代替わりしてから魔物が魔物娘へと変わって人類に対し融和の関係を築いていた。もちろん魔物として昨日まで殺し合いをしていた仲であるからすぐには馴染めず反発するものも人と魔物のそれぞれのサイドで多かった。だが魔物側の魔王の影響力は絶大であった。逞しい筋肉のミノタウロスは巨乳で半人半牛のアグレッシブな女性へ、俊敏さで人間軍を翻弄していたワーウルフは野性味あふれる手足ともとの獣耳を残してスレンダーな女性へ、蠱惑的な魅了術で相手を養分へと変えていたアルラウネは致死毒を甘美な蜜に変えて繁殖に勤しむべく相手を誑かし、人間側と比較的友好的だったコボルドは人懐っこい背の低い可愛い少女に、威厳を持ち絶対強者として君臨していたドラゴンですら所々に鱗を纏い鋭い爪と逞しい尻尾を持つ凛々しい女性へと変わっていった。まだまだ挙げればキリがないがほとんどの魔物は現魔王の手により内面と外面を根本的に塗り替えて暗い世界を書き替えてしまったのだった。
 
 そんな昔からの関係変化により過去の確執はすっかりなくなったようにみえる現代の魔物娘と人間の関係だが一部人間側ではいまだに魔物は絶対悪であり消去すべきだと訴える主神教信仰の人々が世界各国で少数過激派としてテロ活動を行っているのもまた現状である。

 ところで皆さんは商店街といえば何が思い浮かばれますか。活気あふれる八百屋、頼れる町の電気屋さん、揚げたてコロッケが美味しい肉屋、サービス精神旺盛な魚屋、いつもニコニコ果物屋、静かにたたずむ占い師、わくわくしながら通ったおもちゃ屋、ご婦人の服ばかり取り扱っている服屋、軒先の商品がガチャガチャうるさい金物屋、不良もライダーも関係なく集まる数寄物だらけの輪業店、静かにコーヒーを味わえるジャズのレコード流れる喫茶店、配達は早くないけどこっそりおからを好きなだけ分けてくれる豆腐屋。集まる人々はうるさいほどに快活であちらこちらが自転車の駐輪場になって歩くのも鬱陶しいけど人情にあふれ笑顔が絶えない、そのようなイメージがあると思います。
 ではもしものお話。近所に超有名な大手スーパーマーケットやデパートが出来てしまいお客がなくなったような商店街、といったらどんなものが思い浮かぶでしょうか。店端で新聞を読みふけってる八百屋、自店の電気すらまかなえず歯抜けの照明だらけの電気屋、揚げ物なんてしばらくの間提供していないガラスケースにほぼほぼ空気を展示している肉屋、くたびれたパイプ椅子に座って眠そうにしている魚屋、商品に混ざって猫が寝ている果物屋、もう二度と来ない占い師を待ち続ける朽ちた
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