夏の蝉時雨が喧しく聞こえるまだ日が中天に届かぬ高さの時、陽炎がすでに揺らめき始めたアスファルトの路を帽子を被って進む背の小さい人が一人。
その人、見た目140位と背が低く顔立ちが整っていて一目見ただけでは男か女か判断しづらかったが、胸が無く男物のシャツと黒のハーフパンツサイズのカーゴを着ているので男なのであろうか?
「ふぃ〜・・・暑い・・・久々とはいえ・・・おぼえているかな? 白百合のヤツ・・・」
聞こえた独り言の声は変声期が過ぎたのか分からないほどのアルトボイスだったがどうやら男であっているようだ。
「・・・何してるのかな・・・白百合は・・・」
何か感慨に耽っているその男の顔は苦笑をして視線をまだ見えぬ神社に向けていた。
「・・・ん? 和弥か?」
「・・へ? あっ!」
何気なく歩いていたらその男にとって懐かしい顔が対面で同じ歩道を歩いてくるではないか。
「やぁ、久しぶり。」
「おぅ。元気だったか?」
まだ小さい頃白百合と共に脅かしていた一群の一人でよく共に遊んでいた親友の一人だった。
その親友とは小学校の転校のときに分かれたっきりだったがすぐ和弥に気付いたあたりやはり腐れ縁とはいったもの。
「・・・お、んじゃまたな!」
「うん、また!」
その親友と立ち話にてつかの間の再会をしていたがプップー、と車道側から車のクラクションが鳴ったのでそちらに視線を移すとそこには男が運転する車に人の女性が一人と魔物の女性が一人乗っていた。種族は恐らくワーウルフのようだ。
その人達の視線はついさっきまで話していた親友に注がれていてそれに気付いた親友は左で頭を掻きながら右手で謝罪の格好をして和弥に別れを告げた。
対する和弥も名残惜しむようにして親友と別れた。
そして再び歩き出した和弥は小さい頃良く足を運んだ駄菓子屋にてアイスとジュースを買って目的地である神社に向かって棒アイスを口いっぱいに頬張りながら嬉しそうに歩を進めていった。
やがて小高い場所の頂上に紅い大きな鳥居が見えてきた。
「あ、やっとついた♪」
和弥の歩は更に加速していく。小さい頃は上りきるのでさえ息が上がっていた長めの石段も高校2年の男子の筋力をもってすればなんと言うことはなかった。
最後の段を上りきり目の前に見えた景色は小さい頃の情景を切り抜いたままのようだった。
茅葺の本殿。
色がぼやけて所々赤が剥がれている鳥居。
苔むしても尚役目を全うするべく構えて座る狛犬。
ーーー何一つ変わらない。
「・・・スゥー・・・ハァー・・・はは、変わんないなぁ・・・」
心拍数を数回の呼吸で落ち着かせて神社の様子をみた和弥は第一声にそう呟いた。
良く見ると目の前の石畳をシャッ、シャッと竹箒にて掃いている巫女服の女性が一人いた。
その身長は160位と女性としては背が普通、しかしながらそのスタイルは巫女服の上からでも分かるほどグラマラスという反則ものだった。
胸下で締めているためソコが強調された服はどこかエッチな感じがした。ただし良く図鑑で見かけるほど大きくない。
そして何より目立つもの、そう。
絹糸の様な真っ白な髪を腰まで垂らし、その腰から尻尾を一本と頭の上にピンと立ったミミ。
それが彼女の象徴であり、そのような特徴のものはこの神社周辺に昔から一人だけ。
稲荷で、幼馴染で、悪友。
和弥は今すぐにでも走り出したい気持ちを抑えて彼女の名前を呼ぶ。
「・・・白百合。」
ピクン!
「・・・和弥・・か?」
俯き気味で顔がわからなかったが呼ばれてフッと上を向いた瞬間、和弥は心臓をつかまれた。
幼き頃の白百合の顔はそのままなのに線がはっきりして、少し釣り目になっていた。
その白百合からはもう少女の気配は消えうせて代わりに大人の色香を纏っていた。
「・・・うん、ただいま。」
「・・・うむ、おかえり。茶でも飲んでいくか?」
和弥はアレ? 、っと思った。コチラとしてはもっと感動してくれるのかなと思っていたのに実際はまるで参拝客の一人と接しているような態度だった。
「・・・えっと・・・」
「ナニを突っ立っているんだ? 早くコッチに来い。」
と言ってくるりと振り向き彼女の家である本殿にスタスタと歩いていく白百合だが尻尾がリズミカルに左右に揺れているところを見ると・・・まんざらでもない様子で。
仕方なく和弥も白百合の後に続いていく。
身長の差が20もあるので並んであるくと親子にも見えなくなかったのは余談。
そして二人は白百合が持ってきた茶にて本殿の階段に腰掛けて今までの事を赤裸々に語り合う。和弥にとって白百合は心許せる数少ない相手であった。
「学校はたのしいか? ちゃんと彼女はつくったか?」
「か、彼女なんて作らないよ!?・・・うーん・・・学校は楽しいけど・・・今進路に迷っ
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