「じゃあ、行ってくるね。アニーパパ、アリーママっ!」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい、しっかり女神様から教わってね?」
広大な畑の中に立つ一軒屋。その玄関先の処、そこでは今まさに空に向かっていこうと羽を羽ばたかせている天使がいた。
その天使と対面するように肩を寄せ合い暖かな目でその天使を見送るように立ている一組の夫婦がいるが、こちらの女性も白い羽を生やした天使であった。
「あ、それから姉さんにも頑張ってと言っておいてくれないかな? パパ、ママ?」
「あぁ、分かった。」
「えぇ。」
そう伝言を頼んだ天使は一際羽を強く羽ばたかせて徐々に高度を上げ始める。
「では・・・いってきまーす!」
「サリューっ! たまには帰ってこいよなっ!」
「体に気をつけてねー!!」
手を振って天高く飛んでいく天使に夫婦は大きく手を振り笑顔でその娘を見送った。
やがてその娘が見えなくなって柔らかい風が夫婦の頬を撫でて行く。
「・・・行ってしまったね。」
「・・・えぇ、また2人きりね。」
そういう哀愁漂うべき台詞を発しつつもその夫婦は互いに微笑んだまま未だに天使の娘が飛んでいった天を仰いでいたのだった。
「・・・さぁ、ウチにはいろっか? アリー。」
「・・・えぇ、アニー。」
夫婦はまるで結婚前のカップルのように手を繋ぎゆったりと、その場を惜しむように歩いて玄関を潜り中へと入っていった。
三人がいた場所では少し強い風が砂埃を伴って横切っていく。
「とうとう娘たちは皆それぞれの道に進んでしまったんだね。」
「えぇ。天界に行った娘が三人、お嫁に行った娘が二人、修道院に勤めるようになった娘が一人・・・・ふふ、本当に色々な道に進んで行ったわね。」
テーブルに座って向かい合う夫婦は過去の話に華を咲かせているようで皮膚に皺が多くなったアニーはいまだ変わらないままの姿のアリーを見てふぅと溜息をついた。
「長女達エニス、カトレア、マーブルを生んで、翌年に双子のグリー、バリス。さらに翌年に末娘サリューが・・・アリー、本当にありがとう。」
ニコっと微笑むアニーはアリーに向けて言い切れないほどの感情を多く詰めた『ありがとう』を立ち上がり、態々向かいのアリーを背中から抱きしめて耳元で囁くようにして言うのであった。
「ううん・・・私からも言わせてよ? ・・・『ありがとう』って。」
自分を包むアニーの腕をキュッと大事に抱えるように抱き込んで少し姿勢を崩して振り向き上目遣いをして微笑んで発したアリーのその言葉にはやはり幾多もの思いが詰め込んであった。
「でも心配な娘がいるのよね・・・」
「マーブルかい?」
微笑んでいた表情が一気に曇りとても心配そうな顔になるアリーを機敏に感じ取ったアニーはすぐにその心配の種が思い当たり我が娘の中で一番の問題児だった娘の名を言う。
「えぇ・・・あの娘のいいところは真っ直ぐなところなんだけど・・・それが裏目に出なければいいんだけど・・・」
「まぁ、一番の武力を持っていることだし・・・大丈夫じゃないかな?」
お互いに苦笑いする夫婦は暫しの沈黙のあとアリーにアニーはこの頃のことについて
聞き始めた。
「・・・アリー。この頃ボーッとしたり体が重そうだけど・・・どうしたんだい?」
「っ!? い、いえ、なんでもな・・・・・ぁっ・・・・」
その質問を投げかけた瞬間体がビクンと跳ね上がりアタフタするアリーに対してアニーはギュッと抱く力を強めて頭をポンポンと器用になで始めた為アリーは落ち着いていき顔を綻ばせながらそれを享受している。
「ねぇ、教えてくれないかな?」
「・・・うん・・・」
観念したようでアリーはアニーに今の自分に起こっているであろう変化を告げる。
「・・・実はね、アニー。アニーと繋がっていないといつも倦怠感が纏わりつくかんじになったの。」
「・・・えっ・・・」
その事実に驚きを隠せなかったアニーだったがアリーは黙々と喋り続ける。
「心配になった私は女神様に相談したの・・・そしたらね・・・『魔物化が進行している』んですって・・・」
「・・・」
アニーは黙って目を瞑って聞いている。
「女神様は更にもしかしたら私の声が天界に届かなくなるかもしれない・・・とも・・・」
「・・・アリー・・・」
アリーが小さく震え始めたのを感じ取ったアニーは優しくギュッとアリーを再び抱きしめる。
「・・・私ね、魔物になるのは怖くない・・・と言えば嘘になっちゃうかな? ・・・でもココでずっとアニーとあの娘達と、それから色々な人達を見て魔物になってしまっても・・・多分私は後悔は無いと思う。」
抱きつくアニーの腕をぎゅぅっ、と不安をかき消すようにして強く握るアリー。
「でも・・・でもね・・・一番怖いのは・・・堕落した私が果たしてこの性格の
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