『ある夏の日の・・・』



「あ、あぢぃぃ・・・・」
「ちょっとぉ、翔(しょう)。そんなあからさまに言わないでよ・・・」
尻尾をダラッと力なく垂らした白のキャミソールと青のスカートという涼しげな格好の稲荷が隣で歩いている背が高い男に注意をしていた。

「んなこといったって暑いものは暑いんだよなぁ・・・悠(ゆう)だって暑そうじゃないか?」
「わ、私だって暑いけどガマンしているもん!」
一瞬だけ強く尻尾をふる悠。

「はぁ、そうかい・・・お、見えてきた。」
「あ、園子(そのこ)が手を振ってるよ?」
と翔に釣られて視線を前に移すとそこにはガラスの向こう側から「おーい」と言わんばかりに笑顔で手を振る大親友の姿があった。

カランカラン・・・

「ごめ〜ん、待った?」
「ううん。まだ私達も座って数分だったもの。」
大きなテーブル席に座るはメドゥーサの園子とその彼氏の雅紀(まさき)さんだった。
そして稲荷夫妻は店内のエアコンの有り難味をかみ締めながら飲み物を注文した。

「あれ? そういえば凍(とう)夫妻は?」
「今向かっている、って電話が数分前にあったから・・・あ、噂をすれば。」
夫は夫同士で話をしている中まだ来ていないもう一組に彼女達が話題を出すと噂をすればなんとやら。

カランカラン・・・

「いやぁ、すいません。ウチの妻がちょっとグズってしまいまして・・・」
『・・・??』
夫婦達のテーブルに近づいて挨拶をしてきた筋骨隆々の男、凍の夫の寛(ひろし)が申し訳なさそうに頭を少し下げながらやってきた。しかし肝心の凍が見当たらない。

「えっと・・・凍は何処にいるのかしら?」
園子が皆が思ったことを代表して聞いた。

すると?

「ほら、凍。はやくでてきてくれよ。」
と寛は自身の背に顔を向けてなにやら困った顔をして何かを呼んでいた。するとノソノソとゆっくりと出てきた色白の髪の少女(?)がおどおどしながらに挨拶をする。

「お、お久しぶりです・・・皆さん・・・」
なんとそれは凍自身であった。しかし・・・


「・・・どう見ても25にみえないね。」
「・・・そうね、精々15,6ね。」
嫉妬やら羨望やら可愛い物を見る目やら呆れやら色々な感情が入り混じった目を向ける2人の親友。

「うぅぅ・・・だからこの姿ででたくなかったのにぃぃ!!」
「まぁまぁ、可愛いからいいじゃないか。」
「・・・あなたぁ♪」
この夫婦、朝方からノロケ全開だった。

そして全員揃ったので本題に入るようで?

「園子、一体どうしたの?」
「そうよ。直接話したい、って。」
「うん、ソレなんだけど・・・実は・・・」
顔を寄せて親友2人に告げた園子の言葉はとても目出度いものだった。

「私、雅紀さんと結婚が決まったのっ♪」
その報告をする園子の顔には満面の笑みがあった。

「わ〜おめでとう! 」
「おめでとう! 園子♪」
そしてその祝い事を祝福する親友は本当に嬉しそうだった。

対して夫達はというと?

「寛さん・・・奥さんどうしたんです?」
「そうそう、いつもはもっと背の高いご夫人だったかと・・・」
「実は・・・」
先に結婚報告をさらっと済ませていつもと違う凍についての話題になっていた。

「今日の朝のことなんですが、かなり気温が上がってきたので冷蔵室の設定をし直そうと冷蔵室に向かったらうちの凍が中でぐったりしていまして・・・」
「まぁ、この気温では・・・」
「えぇ。自分もそう思います。」
うんうん、と頷く夫達。

「しかもその状態ときたら・・・●学生くらいにまで縮んでしまいまして・・・でも大きくなるには精が必要で・・・」
『なん・・・だとっ・・・』
驚愕の表情の2人に寛はさらに言う。

「それでいざコトにのぞんでみたら元の身長になる為の量まで全く足りなかったんですよ。そのせいで今の高校生くらいの身長に・・・」
「(・・・ちょっと羨ましい)」
「(・・・奥さん一人でどんなニーズもカバーとか・・・凄いな・・・)」
口をあけて呆けていると横からなにやら凄い冷気がそれぞれの夫に差すように流れてきた。
それを感じ取った夫達は一斉に汗が噴出した。
そう大量の冷や汗が。

恐る恐る横を錆びたブリキの人形のように向くと?

「あら〜随分たのしそうですね〜?」
「ほ〜んと妬けちゃうくらいにね〜?」
「ふふっ、そんな固まってどうしたのかしら〜?」
背景に炎を纏いし妻たちが、それはそれは『綺麗な』笑顔でこちらに語りかけてきた。

その気の例えをそれぞれの夫はこう語る。

寛。
「牛10頭解体すること以上に体力が削られた。」

翔。
「集中治療室に担ぎ込まれた重篤患者をオペするより背筋が凍ったよ。」

雅紀。
「あの気は15R延長の試合より体力が削られる。」

と。

その後平謝りの後機嫌が戻った妻達とそれぞれ談笑し暫くして
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