ーー【傾国】第十一章 好敵手あらわる・・・ーー

季夫人を封じてから数日・・・

ここは葛篭の部屋・・・

「焔、暫くは動くなよ?」
「あぁ、御免ね・・・長海・・・春・・・」
「焔さん、貴女が無理してしまっては計画が無事に進められないんですよ?」
本来の姿になって寝具の上に仰向けに寝ている焔に付き添うように長海と春が寝具や備えの椅子に座って看護をしている。

その焔の顔は・・・どこからどう見ても病人の顔だった・・・
閉じかけた瞳、額や顔から珠のような汗、荒い息、白いことが自慢の肌が病的にさらに白くなっている・・・

しかしその表情は数日前より幾分かよくなっている・・・

どうしてこの状況になってしまったのか?

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・


季夫人を封じた夜、部屋に帰ってくるなり『複写』が行き成り解けて・・・倒れてしまった。急いで皆で寝具に寝かし、長海と葛篭は焔があらかじめ溜めておいた『人除けの呪符』と『絶音の呪符』を四方の壁に貼り付けた。
・・・いつもと同じようになった部屋の中、苦しそうに息をする焔・・・

「ふぅ・・・ぅ・・・・まさか・・・ここまで集中的に・・・ぅ・・・符を使うことに・・・なっちまうなんて・・・ぅぅ・・・」
「え? どういうこと?」
「符? 確かに今日は多くつかっていたな・・・」
愚痴る焔の口から符の言葉が出てきたとき春と奈々が疑問にみちた声と共に顔を顰めて首を捻った。

「・・・つまり、妖力の過剰行使が原因・・・」
「そぅ・・・その通り・・・・ぅぅ」
「何っ?!焔っ・・・どういうことだ・・・っ」
顎に手を当てて考えていた慎香がハッとした表情になり小さく呟いたその言葉に焔は反応した。
驚愕の表情になる長海は慎香を見たのち直ぐに焔に向き直る。

「焔・・・史厳帝王の精はどうした?・・・まさか垂れ流しではないだろうな?」
今度は奈々がハッとした表情になって・・・焔に問いかける。

「は、はっ・・・あんなの全部入れたくないね・・・・ぅぅ・・・この尻尾だって・・・ぅぁ・・・長海のものに・・・ぅ・・・少しだけ帝王のヤツの精・・・ぅぅ・・・肉体に宿っている方を・・・ぅぅ・・・いただいた・・・結果・・・ぅ・・だよ・・・」
「焔・・・お前・・・」
奈々は驚いた。・・・と同時に・・・

≪やはり・・・長海は皆から好かれて・・・ふふっ・・・≫

・・・交わることで精液から直接吸うのではなく、態々体内から精力を変換して吸収する・・・
そんな回りくどいことをする焔の心情は如何ほどだろうか・・・

・・・奈々は優しい笑みで焔を見つめていた。

「で、でも・・・それって・・・」
「えぇ・・・符術、ましてやこれだけ大掛かりなものをいくつも・・・となると・・・使う力・・・妖力というか、魔力というか・・・とにかく、それが足りなくなるのは必然。・・・・どうしてそうなるまで・・・あっ・・・」
焔のその発言を聞いて頭の良く回る春と慎香は直ぐにソレによる危険性を察知した。
そして原因となりえるものが一つ・・・慎香の頭によぎる。

「・・・ふふっ・・ぅ・・・何、気にし・・・ぅぅ・・・ないで・・・。」
「やっぱり・・・私に使ったんですね・・・大半を・・・・」
思い当たる原因・・・それは慎香の【気付けの儀式】。

普段から隠していた妖力すら開放して・・・
長い呪印を妖力を篭めて書き上げて・・・
最後の一喝に更に力を篭めて・・・

「うぅ・・・ご、ごめん・・・なさい・・・ぅぅっ・・・ヒグッ・・・」
・・・それを悟ってしまった慎香はその綺麗な赤い瞳を潤ませ・・・涙が止まらなくなり・・・寝具の横でへたり込んでしまった・・
そしてその大きな手で顔を隠してしまった・・・・

そこへ・・・

「・・・だから・・・ぅぅ・・・気にする・・・ぅぁ・・・なって・・・」
「あ・・・」
ふわりと慎香の頭の上に焔の手が・・・
あまり体に力が入らないのだろうか・・・肩肘立てて小刻みに震えながらも手を伸ばし・・・

慎香の頭を撫でる・・・

それに気付き顔を上げたところへ・・・

「・・・まぁ、焔がいうなら・・・そういうことだ。」
「・・・だから気にするな。」
奈々、長海も隣に立ち慎香の肩にそれぞれ手を置いた・・・

「・・・あ゛・・・あ゛り゛がどう゛・・・ござい゛まじゅ・・・」
耳が完全に折れ曲がり・・・
尻尾が歓喜で激しく振れ・・・
涙でぐしゃぐしゃになりながら・・・



慎香は仲間の暖かさに触れていた・・・・・



「・・・ぅ・・・そ、それじゃ・・・ぅぁ・・・あたしは・・ぅ・・・寝るとしま・・・ぅぁ・・・すか・・・」
そういうと撫でていた手を引っ込めて・・・力なく両手をダラリと体の直ぐ横にぴたりと沿わせて静かに目を閉じた・・・

暫くすると安らかな寝息が聞こえてくる・・・
すぅ・・・すぅ・・・と。



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