『意思・・・』



カツン・・・カツン・・・カツン・・・

ランプを灯した小屋からはノミをハンマーで打ち・・・ゴリゴリと岩を削る音が響いてくる・・・
白髪の混じる髭を多く蓄え、白髪交じりの髪も後ろで束ねた見るからに筋骨隆々な男が上半身を肌蹴て独り・・・・静かに・・・・真剣に・・・・


カツーン・・・・カツン・・・カツン・・・・パキン!


・・・手が止まった・・・・

「・・・ぬぅ・・・しまった・・・」
・・・顔は変わらないが言葉から滲み出る感情は・・・焦り。

「・・・ふぅ・・・また打ち直すか・・・・」
男は製作途中であろう作品のところから立ち上がり・・・後ろに歩いていく・・・
其の先にあるもの・・・それは・・・


大槌と目打ち用の大楔(おおくさび)。


・・・それら二つを手に取り再び作品へたどり着くと、作品の芯となる部分に大楔をあて・・・そして・・・

大槌を振り下ろす。
・・・何のためらいもなく。

ガシャッ・・ボロボロボロ・・・・

・・・作品だったものは崩れ去ってただの石になった・・・
其のとき小屋の扉が勢いよく開き、元気な少年が扉の前に仁王立ちで登場した。

「親父、昼飯できt・・・また壊したのか?」
「あぁ〜・・・もうそんな時間か? マゥロ・・・」
気だるそうに頭をポリポ掻いてゆっくりとドアまで歩き出す父。

「・・・あぁ・・・このごろイメージどおりに打てなくなってな・・・」
「・・・親父・・・天下の石匠フィンテッドが教会からの制限d・・・」
「ソコまでだ。マゥロ。・・・例え自分の表現を公に出来なくても・・・だ・・・」
・・・父の背中は悲しそうだった・・・
そしてフィンテッドは小屋を後にして眼下の自宅へと歩き出した。

・・・マゥロは小屋の中を見る。
・・・無表情で美しい曲線美の女性像が数体・・・いづれも裸体であった。
しかしそれらに対してやましい気持ちは生まれない。
何故か・・・みていると・・・安心する。
まるで・・・母親にあやされている様な・・・そんな心落ち着く感情になってくる。

しかし・・・

これらは決してこの小屋の外に出ることはない。なぜなら・・・
いづれも魔物娘だからだ。
サキュバス、ラミア、ワーウルフ、ハーピー・・・・いづれも日常的によく見かけるといわれているモノ達だ。
ではなぜ外に出せないのか?

裸体だから? ・・・・・違う。
子供に悪影響? ・・・・・違う。
魔物娘だから? ・・・・・ある意味では正解だ。

答えは・・・
ここが反魔領だからである。教会の締め付けがそれほど厳しくないといっても魔物娘の石像を出すのは・・・

以前フィンテッドはそれがわかっている状態で作品を出したことがある。

その時の石像は「卵を抱き微笑むブラックハーピー」だった・・・

その結果・・・・・意見は2分した。

「すばらしい・・・」「母性を感じる・・・」
と褒めるものも居れば・・・

「汚らわしい・・・」「破廉恥な・・・」
と貶めるものも・・・

挙句、教会が介入してきて・・・

「石匠フィンテッド。アナタはこの領内にて教会の定義を著しく傷つけたものとして【石匠】の職を剥奪します。・・・なお、再びこのようなことがあった場合はフィンテッドをスパイとして処刑も辞さないことをここに宣言します。」

・・・・そう、今父であるフィンテッドは石匠ではない。
だが教会の影でひっそりと石を彫っている。
・・・以前の広場での出来事でフィンテッドの作品にほれ込んだ人々が裏取引で買いに来るのだ。
ただ・・・表立って石を入手することが出来なくなったので少しずつ・・・長い時間をかけて作品を作っている・・・


・・・そんな作品郡の中で一際大事に保管されたものがある。
見た目は先のサキュバスの像と変わらないように見えるが・・・

長く表現された髪は腰まである・・・
尻尾がサキュバスのソレではなく、リザードマンのような尻尾・・・
他の像が立ち彫りなのに対して、この像【だけ】座っている・・・
よく見ると片目だけしか彫っていない・・・
そして台座に【座する悪魔の美しき事】と打ち込まれた金文字のプレートがある。

・・・父・・・天下の石匠フィンテッドの最高傑作であり、未完の大作でもある。
以前にマゥロがフィンテッドになぜ片目を彫らないのか、と聞いた所・・・

『コイツにはもう魂が入っている。片目を入れてしまうと夜な夜な動き出してしまうだろう。・・・ゆえにわざと片目は未完成のままだ。』

・・・といっていた。


「おぉーい、マゥロ。冷めてしまうぞー?」
「う、うん! 今行くよっ」
・・・その日の昼食をとった。


・・・・それがこの街での最後の団欒とは思いもしなかった・・・

昼食が終わるや・・・

「えっ? 今から仕事に行くのか?」
「あぁ。・・・・
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