『悲劇を喜劇に・・・』




ここは図鑑世界がそのまま近代化した現代。
かつてジパングと呼ばれたこの国の一角、とある中学校から物語は始まる・・・

「起立っ、気をつけっ・・・ありがとうございましたっ」
『ありがとうございましたっ』
どこかの教室で挨拶がする・・・

「ふぅ・・・なんで夏休みの午前中に来なきゃならないのかな・・・」
「だよねぇ・・・園子(そのこ)の頭の蛇達もダラッとしているわよ?」
「そういう凍(とう)だって・・・髄分とまぁ・・・その・・・縮んだよね・・・」
・・・挨拶が終了し皆が帰り支度をし始め、中には先のメデューサやユキオンナのように駄弁っているものもいる。

「あ、翔(しょう)君。」
「ん? はい、何ですか? 由良(ゆら)先生?」
「悪いんだけど・・・また悠(ゆう)さんのところへ書類を届けてほしいのよ・・・」
翔と呼ばれた少年を呼び止めたのは今にも教室を出ようとドアに手を掛けた状態だった妖狐の女性だった。

「わかりました。・・・どこで受け取ればよろしいですか?」
「いつもどおり職員室前で渡すからちょっと待っててね。」
「はい。」
彼は慣れた受け答えで聞きうけ帰宅準備を整えて職員室へ向かった。
職員室前で様々な人が過ぎ去るのを横目に・・・
翔は腕を組みバックを床に置いて壁に凭れ掛かって待っていた。

「はい、おまたせ〜」
「いえ、いつもよりチョット早いくらいで大して待ってませんでしたよ。」
「ふふ」
何分か廊下にて待っていると職員室の引き戸が開き先ほどの由良先生がいくつかのファイルに数枚のプリントを挟み込んだものを翔に手渡した。

「・・・いつも本当にありがとうね。・・・本当は私が行きたいんだけど・・・」
「いえ、由良先生は学園祭の準備担当とかで忙しいんですから無理しないでくださいよ。それに僕は家が隣ですから何のそのですよ。」
「・・・本当にありがとう・・・ね・・・」
ふふっ、と微笑む由良先生の顔には微笑みの中に悔しそうな顔が見えた。

「それじゃあ、悠ちゃんにお元気でと・・・あと無理して来ないようにって伝えて頂ぅ〜戴ぃ〜」
「はい、分かりました。・・・それでは失礼しますっ」
軽く頭を下げて会釈をし、振り返って下駄箱の場所まで早めに歩く。
後ろからは由良先生が手を小さく振っていた・・・

翔の姿が見えなくなると・・・

「・・・ごめんなさいね・・・翔君・・・」
・・・もうそこにはいない翔に・・・顔を俯かせて謝る由良先生がいた・・・


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其の頃の翔はというと、正門で親しい友人数人と別れた後真っ直ぐと自宅へと向かう・・・かと思いきやすぐ隣のうちの門を呼び鈴も押さずに潜り・・・

「すいませ〜ん、翔ですけど・・・・おばさ〜ん、いますか〜?」
ドアを半開きにして顔を突っ込みそう呼びかけると・・・

「あら、翔君いらっしゃい。悠なら上で寝ているわよ?」
「分かりました。・・・あ、これ由良先生から渡すように言われてきました。」
鞄を弄り取り出したファイルをついさっき小走りでやってきた悠のお母さんに渡すとお邪魔しますと挨拶して靴を脱いで上がり【翔】と書かれたスリッパに足をいれて其のまま二階へとゆっくりと上がっていった。

そしてそれを微笑みながら見送り、翔が見えなくなったのを確認すると翔から渡されたファイルを見始める悠の母がとあるページにて動きが止まった・・・

「・・・やっぱり・・・駄目だったのね・・・」

・・・それは診断カルテの模写だった。カルテの片隅に小さな文字で・・・

≪ーーーお力になれなくてすいません・・・。  由良外科医院院長 由良 美紀≫

・・・母親は静かに涙した・・・・







そんなことは露知らず、翔は廊下をある程度歩いて目的の部屋の前に着く。其の部屋には可愛らしい狐の木の表札に【悠】と書かれていた。
そして翔はコンコンと軽く握った拳を裏返しその表札の部屋の主に語りかける。

「お〜い、悠ぅ〜・・・おきてるか?」
「あ、翔ちゃん? おきてるよ。はいっていいよ。」
確認を取りドアのノブを押し下げゆっくりと押し開きながら「お邪魔します」と漏らす。
そしてドアの先・・・光の射す窓際のベッドでこれまた可愛らしい寝巻きを着た女の子がこちらをみて微笑んでいる・・・
それを見た翔もドアを閉めて振り返り微笑返してゆったりとした動作で歩み寄り、ベッドの直ぐ脇にあった丸椅子にトサッと腰を下ろした。

「よかった、今日も元気そうじゃないか。」
「ふふっ、今日は朝から調子がいいんだよ。それで・・・今日はどうしたの?」
上体だけ起こして眠っている悠に翔は楽しげに今日あったことを話す・・・

「・・・でさ
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