『貴族か・・・』


ここは親魔領『バルドラシー』。ここでは他の所とは違い珍しく魔物の領主・・・しかもヴァンパイアが治める領でもあった。
そこには今年12歳になったばかりのとても綺麗な娘・・・『リズリア・フォン・バルドラシー』がいた。

そして今は、というと・・・・

「・・・であるからして、この場合・・・」
「・・・・(退屈だなぁ〜)・・・・・・・はい・・・・・なるほど・・・・」
・・・『本が天井までうず高く並べられた』城の一室で母・・・『アンリ・フォン・バルドラシー』と一対一で帝王学を学んでいた。

・・・リズリアは鬱屈しているみたいだが・・・

「・・・である。・・・・む? リズリアよ・・・・随分つまらなそうだな・・・ん?」
講談を止めて向かい合う机越しにリズリアの本心を見抜くアンリ。
その表情は・・・額に青筋が出ているが・・・清清しい笑顔だ。

「なっ・・・そ、そんなことはありませんっ! 」
ガタッとイスを押し出して机を両手の平でバンッと叩いて立ち上がり、少し語尾を荒くして答えるリズリアは・・・・声の中に動揺が滲み出ていた。

「・・・・はぁ・・・まったく・・・誰に似たんだろうな・・・」
・・・暫く睨み合っていたがアンリがはぁっと溜息をつき、眉を顰めてゆっくり立ち上がり・・・
窓の外を見る。

「・・・リズリア。お前は貴族であり、領主の娘でもある。・・・・わかるな?」
「はい。存じております。」
淡々とした全く温度を感じないその会話は・・・とても親子でするような会話ではなかった。

「・・・という事は、だ。・・・・お前は人の上に立たねばならん。何故かは判るか?」
「・・・【下民】の生活は我々が導かねばならないから・・・ですか?」
「ふふっ、其の通りだ。・・・しかし、それだけでは正解ではない。」
相変わらず外を見るアンリの背中へ戸惑いながらも・・・自分の意見を言うリズリアだったが、否定される。


「導き・・・そして守るのが領主の務めであり、貴族として弱者である【下民】を守ることこそ貴族の誇りなのだ。・・・・だがな、【下民】ありての貴族だ。己の階級に過信するな。そして【下民】を蔑ろにするな。・・・・其のことを肝に銘じておけ。」
・・・騎士道とは違う独自の思想か、はたまた為政者としての矜持か・・・

それだけ言い終わるとアンリはクルリと振り返りカツカツと音をたててリズリアを通り過ぎ・・・扉を開けて出て行ってしまった。

「・・・なにが【下民】よ。・・・その言い方ですでに蔑んでいるなんて思ってもいないのでしょうね・・・」
・・・俯いてそう漏らすリズリアの小言は・・・



本しか並んでいない部屋の外に吹く風に掻き消されたのだった。



・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

「ふぅ・・・少し遠くに行こうかしら?・・・・ん〜・・・・『ランに逢ってから』きめよっと♪」
帝王学の講義から少し時間がたった後。
・・・リズリアは『無断で』城下町へ来ていた。
その格好は普段から着ている貴族特有の豪華絢爛な服ではなく・・・至って普通の庶民服である。手首まで袖のあるクリーム色のワンピースに同系色のベレー帽・・・金髪紅眼の彼女に自然と合うデザインの意向であった・・・

そんな彼女がウキウキしながら城下町を歩いていると・・・

前方から誰かが走ってくる・・・

リズリアはその影が自分の待ち人とわかると・・・
微笑んで手を振る。

「ランっ。遅かったわね。」
「ごめんリズ・・・仕事が終わらなかったんだ。」
流れる額の汗を袖で拭い、息を整えながらも笑顔を彼女へ向ける。

彼は「ラン」。『ランパスタ』という郵便配達員である。彼は6年前に今日と同じように城から抜けて初めて城下町に来たとき迷子になっていたところを助けて以来のつきあいで・・・リズリア唯一の自分の素を暴いて接せる友になった。

リズリアの素・・・それは・・・

リズリアは『ヴァンパイア』という種族の中では珍しく、貴賎の階級の分け隔てなく、人も魔物も関係なく気軽に話すことができる社交性と・・・・フランクな性格の持ち主だった。

が。

階級第一のヴァンパイア世界では異端児である。・・・ゆえに親達は矯正させようとしている。その一環として「口調」と「帝王学」である。
しかし矯正をすればするほど・・・よりフレンドリーになっていったのであった・・・
挙句、貴族に嫌悪を抱くまでになってしまった。

「今日はどこへ行く?」
「ん〜・・・リズはどこがいい?」
「えっ・・・ん〜・・・じゃあ、この街が一望できるところがいいわっ!」
・・・犬歯がチラリとのぞき、口角を吊り上げてにこやかに笑ってみせるリズリア。

「よし、・・・・ではお任せを、お嬢様。」
「ちょっとぉ・・・執事はだめって言ったでしょう・・・」
「ははっ、ゴメン
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