「・・・なぁ、焔。」
「・・・何さ、奈々姫。」
計画の全容を長海らにはなし、これから計画実行に移るというところで奈々が焔に問いかける。
「奈々でいい。・・・【妖狐】にはしないのか?」
「ふざけないでよ・・・『あんな』の同属にするなんて真っ平ごめんだわっ!」
【・・・・・】にするくせになぜ【妖狐】にしないのか、との問いかけにこれ以上にないくらいに顔を顰めて横にずらした。
その表情はまさしく汚物を見るような顔であった。
そしてこのやり取りの後・・・
各々の『仕事』へ出向き始めた・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・・まず焔が・・葛篭が向かったのは執務室だった。
木でできた朱塗りの美しく飾られた扉を開けると・・・
数人の文官とともに政務に励んでいる史厳帝王がいた。
・・・幾ばくか【頬が痩せている】・・・・
一歩室内へ入ると仕事をしていた文官達が達が気付いて慌てて跪いて礼をとり・・・
俯くその瞬間・・・「なぜここに?」と疑問の表情を浮かべていた。
奥で政務をしていた史厳帝王も慌しい文官達同様に葛篭に気付き・・・
「おぉ・・葛篭よ、今ワシは政務中なんだが・・・どうかしたのかのぅ?」
「帝王様、私【帝王様が連れてきた魔物】というものを見てみたいのです。」
ピクリと反応する帝王・・・もし・・・もし彼が正常な思考であれば【ソレ】を誤魔化してはぐらかしていただろうが・・・
葛篭の魅了にドップリと浸かった帝王にはそんな選択肢はなかった。
「ほほぅ。どこから仕入れた情報かは知らぬが・・・・よかろう。ワシが直々に案内しようかのぅ。」
・・・今や葛篭にお願いされるとそれを断ることはできないようになっていた。
「えぇっ!? お、お待ちください帝王様っ!」
「まだ本日の仕事が全体の四割も終わっておりませぬっ」
「ど、どうかご自重くださいっ」
自ら案内するという考えられない発言に文官達はこぞって講義を申し立てる。
が・・・
「そんなもの後に回せ。何だったらお前達でやれ。・・・ワシは忙しいんじゃ。それでは行くかのぅ、葛篭や。」
「ふふっ、罪づくりな帝王様ですね。」
・・・思いもしない発言に文官一同口をあけて呆けていた。
そんなこと知らん、と葛篭の横に歩き自身の左腕を出す帝王。
その腕をクスクス笑いながら抱きついて部屋を後にする葛篭達であった・・・
・・・一体この【政務を蔑ろにする事】に何人の臣下が離心しただろうか・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
・・・
そして如何ほど歩いたか判らぬ位宮内を歩き、隠し扉を数回潜り、たどり着いた先は・・・
蝋燭で灯された仄暗い石畳の宮内地下。
・・・そして目の前には鉄柵で遮られた廊下の入り口があり、そこでは門番らしき者が二人、門の前で仁王立ちしていた。
・・・見方によっては【鉄檻】ともいえるソレに帝王は近づいていき・・・
「これは帝王様っ」
「よい、楽にせい。今日は見るだけじゃ。・・・あと葛篭も連れて行く。問題はなかろう?」
「はっ、問題ございませんっ」
帝王の姿を確認した門番達は体を引き締め敬礼をするが、帝王から制されて『女人出入り禁制』と書かれた札を指差す帝王にハキハキと答えた。
「ならば開けてくれぃ。」
「はっ! ・・・・開門。」
そして重そうな【鈍色の鉄檻の扉】は開かれた・・・
「・・・いつもあの方達はいらっしゃるのですか?」
「うむ。この先はワシか【兵士】しか入れぬからな。」
・・・どうやら門番はずっとあの位置にて見張っているようである。
しかし・・・
(なぜ・・・兵士なの?)
・・・その答えはすぐにわかった。中に入って歩けば歩くほどに【臭いと声量】が大きくなり・・・
道中の扉から聞こえるのは・・・
耳を塞ぎたくなる様な嬌声と悲鳴。
漂う香りは・・・
雄と雌の濃厚な淫臭とかすかな血の臭い。
覗き窓から覗き込めば・・・
線の境目が判らぬほどに密集した多くの肉の交わりの光景と、笑いながら女人に鞭を振るう男達。
・・・【天国と地獄】の縮図とはこれまさに。きっとコレのことを言うのだろう・・・
・・・そしてその光景に嫌悪を覚えながらも扉一枚一枚を帝王に悟られないように確認して行く葛篭だったが・・・
(いない・・・一体どこにいるの・・・『黒狗理人(アヌビス)』は・・・・)
と、ふと帝王が歩みを止めた。
つられて葛篭も歩みを止め前を向くと・・・・
ちょうど行き止まりで目の前には【大きな赤扉】があった。
大人が子供を肩車したくらいの高さのその扉を帝王はゆっくりと開けると・・・
(・・・いたっ! )
捜し求めた『黒狗理人』を発見した。
ただし・・・
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