『妖狐より愛を込めて』

「いい加減にしてよお姉ちゃんっ!! 」
「へ、へうぅぅ〜無理、やっぱり無理ぃぃ〜っっ!! 」
とある白壁の大豪邸、表札に【古里瀬】と書かれたその家の上の階からの悲鳴じみた声。
四階の奥の部屋である相部屋からの声のようだ。
庭で遊ぶ狐火ちゃんや幼い妖狐、そのたくさんの子供たちも一斉に動作を止めてみてしまうほどのその大声の主は一体どんなものか、すこし覗いてみましょう。

「もう! 今年こそチョコ渡すんでしょ!? 」
「や、やっぱり無理よぉ…… 」
白と黒、所により赤のアクセント。
そして机とパソコンとベッドとクローゼットだけ。
まさにそんな言葉が頭にぱっと浮かぶほどの単色な殺風景のレイアウトの部屋のベッド、そこが音源であるみたいだ。片やシーツにくるまってカマクラになっていてもう片方がなんとかそれを引っぺがそうとしているのだが、余程の抵抗があってか中々剥がせていないようである。
ただシーツの端からは金色のふっさりとした狐の尻尾が八本も出ているので元々の自力がそれを実現しているようでもある。
では剥がそうとしているものはと言うと外行きの小綺麗な白いキャミソールに黒い長袖タートルネックインナー、赤が基調になったチュニックスカートにマフラー。肩口以上に伸ばされた金髪は紅いリボンでキュッと可愛く一つにまとめられている。
その頭には怒りの為か引っ切り無しにパタパタと上下する三角の鋭角な耳、その尻には逆毛立つ三本の膨らんだ尻尾、まき散らされるそこそこ濃い魔力から妖狐であることに間違いはないようだ。

「いい加減にしてよ累(るい)姉さんっ……尻尾引っこ抜くよっっっ!! 」
「へぅ!? そ、それは嫌っ!! わかったわよぅ、出るわよぉ!! だから実(みのり)やめてよ!!? 」
素っ頓狂なでも可愛い悲鳴を上げたシーツは三尾の妖狐の手をサッと離れのそりとひどく緩慢な動作で殻をむいていくのであった。
その殻から出てきたのは一人の女性で、縦リブの緑のセーターにクリーム色のスラックスタイプのパンツをはいておりそのままそっとベッドから降りて立ち上がってみれば……色々なところが大きい。
これまた魔力の質から妖狐と判定できるが手で来た彼女の目の前で腕を組む少女に比べれば明らかな違いがある。胸ののサイズが少女側で目測Cに対し彼女は目測でEを超え、身長は少女からさらに頭三つ分高い。少女だって同年代の人間の女子にしたら十分大柄であるが彼女は一般男性の身長から頭一つ分高いのだ。
ぼさぼさに伸びきったウェーブのかかった髪は首が上半分隠れるだけの長さだが前髪も同様に伸びている為自然と目隠しされている。耳も自身が無いのがそのまま出ているのかシーツから出てからずっと伏したままである。

「ほら、シーツから出たんなら安芸さんのとこ行こ? 」
「うぅ〜…… 」
「もう!! 何がそんな心配なのよ!! 」
「だ、だってぇ…… 」
おもむろに彼女が少女の目の前でサッと右手で目隠しをそっと上げたところ、本来は同じ色の瞳が一対のはずが彼女には無いのだ。
いや、ガラスのように透き通った目はある。妖狐の特徴の縦裂きの瞳孔がある瞳もあるし、彼女の大好きな官能小説を読みふける為の視力だってもちろんある。
ただ彼女の瞳は左右で色違い、オッドアイなのだ。
向かい合った少女が金の双瞳なのに対して彼女のほうは右が金色で左が紅色、どうやらそのことが彼女にとってマイナスポイントになっているようで。

「もぅ、そんなこと気にするような感じはないけど? 」
「へ、へぅぅ…… 」
「あ゛ぁぁぁぁ!! しっかりしてよ!! 累姉さん古里瀬家の三女でしょ!? いつまでもうじうじしているから万年引きこもりとか言われるんでしょ!? 今年出ていけなかったら三十年越え!? もうね、もうねっ! いいかげんにしてっっっ!!!!! 」
「ひゃ、ひゃぃぃ!?!?」
はたしてどちらが姉か。縮こまりだした世話のかかる姉に対し、頭掻き毟って毛と言う毛をぶわぁっと膨らました少女が無理やり手を取って屋敷を脱するに時間は然程かからなかった……。


ついこの間の大雪で作り上げた庭先のカマクラでギシアン露出結合し子供百人の大台目指すこの館の主たちを素通りしていったとある昼前の事である。


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小高い丘の白い豪邸を下り昔から続いている大きな国道を横断すればその先は閑静な住宅街に景色が変わった。元々古い木造が多く残るこの地域は武士がまだいる時代からの大切な歴史的遺産の集合地域でもある。
そんな木造家屋の街並みに違和感を持たせないよう極力同じようなデザインにした二階建ての一軒家の建物、その家の前には【狐路〜きつねみち〜】と古木材を使った中々風格ある小さ目の看板。家の出窓には簡単な蝋細工で料理のサンプルが飾ってあることから料理やと思われる。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33