「コンコン」
暗がりの夜道、月明かりすらないこの道。
何時もよりも遥かに遅い帰宅に辟易とした私。
どうと言うことはない。
必要以上に会社の残業をさせられた結果である。
まぁ、その私の帰りを待つものなど誰もいない一人暮らし為れど、やはりひと肌の恋しさに苛まれるのは人の常か。
そんな私は毎回必ずコンビニに寄ることにしているのがいい例だろうな。
しかし、今日の帰り道はいつもの道ではなかった。
……いや違う、いつもの道だが状況が違うだ。
ただ暗い、街灯すらあまりないまだ田舎と言えるこの街の田圃道。
その例にもれず街灯などないはずのこの場所でそれはいたのだ。
いた? いや、いる?
いずれにしろ目の前にたたずんでいたのだ。
絵の具の黒一色の表現通り、暗がりのはずのその場所はいつの間にか青白くも淡い、熱身を全く帯びない独特の光。
……素直にきれいだと思った。
地面に影などない。
……完全に宙に浮いている。
獣独特の耳が蒼いボサボサ髪と同色で生えている。
……腰辺りまで伸びた綺麗な髪だ。
起伏の変化のほとんどない体躯だった。
……良く見なくても裸じゃないかっ。
痴少女とも言うべき彼女の尻尾らしい炎が揺らぐ。
……あ、綺麗な紺碧の瞳だな。
「ニンゲンさん、コンにちわ♪」
私の知りうる限りこの道で幽霊や妖怪の類が出るなんぞ聞いたことがなく、科学が発達したこのご時世にいるとは到底信じられなかった。
しかし自分が信じようが信じまいが、彼女の生き生きとした瞳に見つめられればその存在を否定することなどできようか?
……到底無理だった。
目の前は『現実』である。
私は一言も喋ることができなかった。
……自分の中の理解の範疇を超えた現象に私の脳は限界寸前でもある。
「くふふ♪」
そっと、まさに無音。
炎の燃える音すら聞こえやしない。
徐々に近づいてくる彼女に対してとうとう私の正気はシャットダウンをしたようで、薄れゆく意識の中に見えた最後の光景は……
――とびっきりの少女の屈託ない笑顔だった。
「……きて…お…て」
あぁ、なんだろうか。
酷く心地よい酩酊状態の私が誰かから呼ばれている気がする。
……あれ? なんで私は寝ているんだ?
「ね…おきて…!!」
確かあまりにも信じがたいことがあったから意識が途切れた、はず。
なんだったのだろうか?
「ねぇ、おきてよぅ!!」
可愛い顔立ちの青白い肌の女の子、どアップの顔が私の目の前にあった。
今にも唇が触れられそうである。
……あ、また意識が途切れそう。
「あ、だ、だめっ! 寝ないでぇ!?」
あ、なんか頭が下がる。
否、頭が何かから滑り落ちてる?
ゴツッ
「あ! 大丈夫? ねぇ大丈夫!?」
い、痛いっ!
……どうやら頭を地面にぶつけたようである。
まあ、そのせいで自分がいま何をされていたかわかったわけだが。
どうやらこの子に膝枕されていたようだ。
意識が飛びかけた私に慌てた彼女が膝立ちになってしまい、そのせいでタンコブをこさえるハメになったのか。
……しかしまぁ、なんと心配そうな顔なのか。
「大丈夫、大丈夫だからね?」
彼女は慌てん坊だなぁ、と何故か冷静になった私。
ぎゅっ、と私の頭を胸に抱きしめてくれた挙句にそのまま後頭部をスリスリと撫で上げてくれた。
……私は子供か?
「驚かせてゴメンナサイ。私、生まれてすぐにお家出たの……そうしたらへんな穴に吸い込まれて……」
あうあう、と耳を伏せる彼女の困り顔を眺めながら彼女の言葉を脳内で纏める私。
ただ、それも何となくではある。
要約するとこうだ。
彼女は別の世界から来た上にお腹が減っており且つ生まれたてで知識と言うものが最低限しか揃っていない。
……これなんてゲームですか、と言いたかったが彼女の真摯な態度から察するに作り話ではなさそうだ。
「あぅ、本当にごめんなさい……」
うん、許す。
だって彼女の尻尾(?)が不安げに揺れているんだもん。
……だから私の下半身が素っ裸なことも説明中に何度も謝ったからそれも許すっ!
「はぅぅ……」
とりあえず彼女が不安そうだったので抱き返して頭を後ろから撫でてあげた。
まぁなんともかわいらしい声で喜ぶこと、喜ぶこと。
よく動物は尻尾で感情を表すとは言うけれど、彼女は千切れんばかりに振るからよほどだろうね。
「……これからどうしよう」
しかしその呟きと一緒に瞬時にペタリとなる。
感情に嘘をつけない尻尾。
この状態の尻尾が意味するものは……『不安』だ。
昔、猫や犬を大漁に実家で飼っていたからこういうのは嫌でもわかる。
ましたや彼女の目を抱き留められた下側から覗き見れば、線の細い眉毛がハの字なので確定であだ。
「え、わ、私と……ですか?」
見ていて心痛む、とはこの
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