『バフォ様甘々。』



梅雨明けもまだというこの季節、いきなりの真夏日の如き猛暑に人間のみならず魔物娘達も現代文明の利器に頼りだすほどの暑い日が続くジパング。
人間女性と仲良く歩くサキュバスの手にはソフトクリーム、コンビニの刑部狸はしたり顔で飛ぶように売れるアイスのケースを眺め、高校生と思われるワーウルフは制服前を全開にして歩き巡回していたであろう婦警制服をピチッと着こなすアヌビスに注意される今日この頃です。
真っ白い壁の多いとある町の高級住宅街、リリムの別荘やエキドナ等の高等魔物の多く住まうその一画にてお話は進む。

ワーシープが「ふぃ〜♪」と窓を閉め切ってエアコンをかけて涼む住宅の隣、二階建ての大きな白い壁の住宅が舞台であるのでちょっと覗いてみましょう。



「…むぅ」
「ごめん、ごめんって! な? この通り!」
隣と違って窓と言う窓全てを全開にしカーテンを引くこの家、室内に一歩踏み入れば肌を優しく撫でるようにかすかに冷えた風が家全体に行き渡っていた。
その家の一階にある十六畳程のリビング、そこに今回の主役の二人はいる。
片や足をぶらつかせて座る椅子には白いワンピース似合う女の子、一方のもう一人は対面側にテーブル越しに座って必死にテーブルに額を擦りつけて謝っている模様である。
おそらく相手は向かいに座る女の子のようだが、不機嫌そうに頬を膨らませて手を椅子の端にかけて「わたし怒ってます」オーラ全開を微塵も隠す気はないようで唇を突き出して横へと顔を向いてしまっているのだ。
一体何をしたのだろうか?

「私のゼリー……楽しみだったのに……」
「う゛っ……あ!」
フカフカという擬音が合いそうな彼女の手は何かを指さすようにしてテーブルの片隅へと向けられた。
その場所へと目を向ければ、なるほど。
まだ紫色の中身が少しだけ入っているゼリーの容器と慌てて置いたのかスプーンからテーブルに無残に落ちた塊にそのスプーンがあり、どういう状況か理解するのは容易い。
威厳に満ちているはずの山羊角もどこか小さく見える程に縮こまりだした彼女、その目元には何か光るものがあった。
次第に涙目になっきたバフォメットにだんだん気まずくなる男に今ひらめきが走った。

「な、ならさ……今度一緒にデートしようよ!」
「……デート?」
「うん!」
「……おいしいものいっぱい食べていい?」
「いっぱい食べていいよっ!」
そんな彼女を見てどうにかしようとしない男がいるだろうか?
……いや、いない。
彼が必死に言葉を発するたびにピクピクと彼女の垂れ耳が縦に震え、顔も徐々に明るみを帯びて徐々に徐々に上がりだした。
そして彼女を不機嫌からご機嫌に転化させる最後の言葉、止めの一言が今彼女から彼に向かって発せられる。

「じゃあ、私ね……海に行きたいっ!」
「……え、う、海?」
「ぇ……だめ? じゃあ許してあげないもんっ!」
折角晴れかけた機嫌が再び曇り空。
ふくれっ面のバフォメットはせっかく目を輝かせていたのに男の足踏みによって暗い雰囲気へと変わってプイッとそっぽを向いてしまう。
何故男はここ一番で二の足を踏んでしまったのだろうか?

「……やっぱり海はだめだよ」
「……なんで?」
さっきまでのご機嫌取りとは違い辛辣な表情で彼女を見据える男に彼女も気づいて可愛い動作を止め、真剣に見つめてくる男の瞳をそのシャドーパープルの瞳で見つめ返す。
では男の二の足を踏んだその答えとは?







「だってさ? 君の綺麗な体を他の男どもに見せたくないんだっ!」






意外な答えに暫し呆けてだらしなく口を開けていた彼女が、ほんの一寸の間を置いて顔を鬼灯のように真っ赤にしたバフォメットが、ついさっきまでの不機嫌をどこかへふっとばして『大好き♪』と男の胸に飛び込んだのは想像に容易かった。
そのまま押し倒された彼は彼女に対して「ごめん」と「すき」の意味を込めてキスを送り、それが発端となって……あぁ、これ以上はヤボでしたね♪

こうしてジパングの一角でまた一組、愛をより一層確りと確かめ合うカップルが増えたとさ♪

【完】
13/05/14 21:20更新 / じゃっくりー
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33