『跪け、しなくても与えてやる』




「はぁ〜……あのクソッたれファラオの野郎がっ!」
日中、まだ日が中天こえない頃。
ガンガン日が射す猛暑の砂漠。
ズルリズルリと自慢の体をくねらせて、ゆっくり進む女性が一人。
……否、魔物娘が一人。
暴言を吐き、悪態をつくかのように時折砂の山へと下半身の蛇体を打ち付ける。

「なんなのよ! 人の事を云百年も封印して……今さら開封とかっ!!」
白砂の地面に対照的な黒い鱗。
背中から見たシルエットはまるで……大きな大きな毒蛇である。
コブラを思い浮かべるような幅の広いエラ(?)とも見える部分の上、ティアラのような髪飾りには赤く光る玉が二つ。
……否、体中の至る所に赤く怪しく光る玉があるのだ。
また魔物娘、というだけあり上半身へと視線を向ければまさに妖艶な美女である。
肌は紫色という人外らしい肌の色で赤く長く伸びる爪、腰を振り続ける為にできた芸術的なくびれ、縦に割れた腹筋。
不機嫌な表情の目はやはり白くなく黒く、琥珀色の瞳の中にある瞳孔は縦に狭く裂け、ラミア種やエルフ種などと同じ尖った耳が時折ピクンと跳ねる。
……よほどご機嫌ナナメらしい。

「あまりにも長い間封印されて記憶が曖昧だし、何か気持ち悪い気分だわ……」
はぁ、と溜息を幾度となくつく彼女は腕を交えて組んで、また溜息を吐いては組みほぐし……何度も何度も。
爪が食い込むほどに腕を握っては離す。

「ぐぅぅ、憎きファラオの顔が思い出せないッッ!」
そのたびに豊満なバストの頂、乳首に装飾された銀細工の鈴が鳴る。
リリーン、ズリズリ、リリーン、ズリズリ…‥。

「うぅ、私自身が雄だったか雌だったかすら……あぁ、気持ち悪い……でも覚えているわ、私を封印した時に使っていたあの錫杖……あれだけは!!」
頬にあたる風。
彼女の黒から緋色へと変わるグラデーションのかかる1メートル以上もあるストレートのロングヘアーがさらりと流され、砂が舞う。
しかし一寸も反応を示さない彼女。
……それどころではない、と言うことである。

「まぁ何れにしても……確りとオトシマエをつけて貰わなくっちゃ、ね? ふふふっ……」
葡萄の実を思わせるほどの瑞々しい藤紫の唇が歪に曲がる。
そして進行が止まった。

「もぅ片っ端からファラオを堕としてやるわ……あら?」
彼女の鋭い眼光の先には、果たして大きな砂漠のど真ん中にあった。
……詳しく言うなれば巨大なオアシスと化したピラミッド、である。

「こんな所にこんなに大きな都市が……ふふふっ♪ さぞかし名のあるファラオのようね」
そして再び彼女は進む。
先ほどよりも早く。
風のように。



しかし、彼女はこの街にとって招かれざる客人である。



あっと言う間に彼女は土壁の大門へと到達したわけだが、すでに発見されていたらしく物々しい装備の男や魔物が彼女を待ち構えていたのだ。

「待つにゃ!」
「おい止まれっ!!」
「おぃ! 誰かファラオ様に報告だっ!!」
街の入り口、防砂の為に設けられた入場門から出てくる出てくる人、人、人!
門番として普段不真面目なスフィンクスですら真面目な顔して威嚇する。
また一人、また一人……増え続ける人数はとうとう20人を超えてしまった。

「あら? 随分手厚い歓迎なのね?」
「お引き取り願うにゃ」
「何故? 私はちょっとファラオに挨拶をしたいだけなのよ?」
黒い瞳の主はニンマリと頬を緩ませる。
対峙しているファラオ勢にとってはあまり宜しくない笑顔である。

「アンタらアポピスがファラオに近づくとろくなことが無いんでな!」
「あら心外ね? 私は皆して気持ちよくなれるようにしているだけなのに」
「それが余計なんだッッ!」
街の平和を守る為か、普段内政をメインにするアヌビスも現れ彼女に対して凄まじい剣幕で威嚇を始めた。
逆毛を立てる尻尾をブンブン不規則に揺らし、錫杖をアポピスめがけて突きたてるその様子は大変勇ましい。
普通の人がそんな彼女と対峙してしまえば尻もちついて後ずさるだろうが、アポピスの彼女はと言うと?

「あらあら、かっこいいワンちゃんね♪」
どこ吹く風である。

「ぐぬぬっ! 引かないのならば力ずくでお帰り願うが、よろしいかなっ!」
「あらあら怖い怖い。ならば……『麻痺せよ』」
「なっ!?」
撃退せん、と彼女目掛けて走り出したファラオ勢に対しての一言。
たった一言彼女が発しただけだというのに、彼女に顔を向けていた面々は力なく地面にへと突っ伏してしまったではないか。

「か、体が、ッッ!?」
「カプッ……ふふ、ちょっとした魔法は使えるのよ? では……堕ちなさいな♪」
「わ、わふぅ!? キャィィン!?!?」
「ニャァァァァ!?!?」
顔を伏せてしまった敵に対して彼女はゆっくり這いずり、時折魔物娘だけ体を持ち上げては首元に何かをしていく。

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