―――くそっ、ついてない…! この魔物、明らかに格が違うっ!
俺は対峙して初めてそう思ったよ。
今まで、勇者として受けたくもない祝福を受け、殺したくもない魔物どもを俺は心を殺して淡々と粛清と浄化を執り行ってきたのだが…
初めてだった。
今まで築きあげてきた鉄面皮、それが酷く歪に崩れるのが。
その日、砂漠の支部近くにてやたら活発に活動を始めたピラミッドがあるとの報告を受けて100人規模での浄化作業が実行されるに相成ったわけだ。
そこに行くことよりそこでする作業の方が短いだろう、とも思っていたよ。
しかし、実際はそうじゃなかった。
最初のうちは正しく俺の予想通りだった。
しかし数分立たずして司令官みたいな立ち位置のアヌビスにマミーが何か耳打ちをしたところ、血相を変えて、戦闘を放棄してまでの事なのか奥の方へと引っ込んじまったんだ。
信じられるか?
あのガチガチのアヌビスがだぜ?
で、その時から数秒で真実がわかったわけだ。
『跪け、侵入者達よ。待て、我が魔物(むすめ)達よ。…よろしい。ならば問おう!』
廊下の奥、闇の中から女の声がした。
しかもたった一言だ。
その一言だけで重装備の騎士共や老獪な魔術師、果ては前線で気張ってた捨て駒の傭兵やそいつらと戦っていたマミーも…一切合切の動物がその場に跪いちまったんだ。
―――い、一体、何なんだよこの女!?
声が出ないのは目の前らへんにいるの女の威圧からか、はたまた極度の緊張に陥っているからか。
冷たい石廊をヒタヒタとゆったりと歩み寄る女。
薄暗いピラミッドの中、さも当然と、我が家だと、人間程度の視力では真っ暗闇で何も見えないはずの暗闇を迷うことなくまっすぐコチラへと。
まず間違いなくこの声の女、魔物だろう。
……周りの魔物共も従う位だから相当強力な、ね。
『…? あぁ、すまない。いくら礼儀を欠いた主神教団のものでも姿が見えなければさぞ不安であろう。…それ、これで良いか?』
不意にそういう女の声の後、乾いたパチンという音と共に一斉に松明が轟轟と燃えだしたんだ。
そして照らし出される姿ときたら…神々しいの一言に尽きる。
『して、侵入者改め主神教団の者よ。汝ら、何用でここにいる? …まぁ目に見えた質問だろうが』
近くにいるアヌビスの服装と酷似しているが宝石の飾りが多く、高貴な気風を漂わせる褐色肌の女。
目鼻が整い、赤い瞳はルビーを想像するにたやすい。
つま先から太ももまでと、肘から手首まで覆う包帯は宛らマミー版オーバーニーソックスとアームレッグを思わせる。
凛とした振る舞いと、その……胸のボリュームはとんでもない破壊力である。
『どうせ私を狩り殺しに来たのだろ? 浅はかなことだ。…ファラオとして命ずるっ!』
ファラオ……なるほど。
これほどまでの威圧感、どう見ても人間の女にしか見えない女が出しているのにしては強すぎると思ったが、合点がいった。
しかし今はそんな流暢にかんがえごとをしている場合じゃない。
『騎士共、お前たちは大切なものを守ることに特化している。ちょうど門兵が欲しかったところだった……貴殿たちは門周辺のマミーおよびスフィンクスと番になり、門を守るがよい』
俺の目の前に陣取っていた騎士共が何の迷いも躊躇もなく立ち上がると、そのまま奴らは来た道を猛スピードで戻りだした。
そのまま数分経つ頃には阿鼻叫喚の艶色絵図の出来上がり。
『魔導師共、お前たちは頭が良い。ちょうどこちらで内政を管理するものを欲していたところである。……貴殿たちはここにいるマミーおよびアヌビスとつがいになり、我が王国を潤沢なものとしろ』
そうすると今度は俺の後ろにいた魔導師共がゆらりと幽鬼のように立ち上がってふらつきながら近くにいるマミーどもに手当たり次第、続々とまぐわい出した。
一番最後まで残っていた若い男がアヌビスを立ちバックで犯しだす頃まで数分もいらない。
『次に傭兵共、お前たちは金でしか判断できぬようだが…巡回するマミーたちがまだ空いている。そなたらはこのマミー達と番になり、建物および敷地の保安を確保しろ』
……これで俺以外の奴らは皆、降って湧いた愛しい嫁と乳繰り合っている状態になったわけである。
『ぬ? お主…勇者か?』
「如何にも。なりたくてなったわけではないがな」
『…如何様にして勇者となった? 話してみよ』
―――ぐっ、なんて強制力だ……!
そう思ったのもつかの間。
俺の口は立てかけた洗濯板に水を垂らすが如く、一切の流れを止めることなく全て目の前のファラオにぶちまけてしまったのだ。
孤児だったこと……
勇者を選ばなければ奴隷にされたこと……
初めて魔物を殺して何度も何度も反吐を吐いて涙したこと……
やがて心が麻痺して涙が流
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