『ワカサギ釣りならぬ……』


「さみぃ」
氷が厚くはられたとある湖。
その氷上にて携帯椅子を一脚と釣竿をもち、トナカイの皮で作られた防寒具をびしっと着込んだとある男がザクザクと針がしこ蒸れたスパイクシューズをかき鳴らして気怠そうに歩いている。

「ったく……なんで俺が……」
氷が厚くはるほどの寒さ。
勿論、男以外の人間なんていない。
ましてや生物の影すら見かけない。

「くそっ……ついてねぇ! なんでアソコでカード切ったかな……フラッシュのままなら……」
どうやら漁に誰が行くか、という賭け事で負けを喫したらしい。
歩きながらもブツブツと途切れることなく文句を言う男、その歩みの速度は変わらずどこか決まった場所へと向かっているようだ。

「えぇっと、どこだったかな?」
地吹雪を遠目に見ながらそう呟いた男。
……どうやら所定の場所に着いたようで、氷に膝をついて四つん這いになるとガザゴソと何かを弄るようにして暫く。

「お、あった!! ……そぉいっ!!」
気合一発、声と体ともに力を入れて引っ張るのは地面から生えた縄。
その縄を暫く引き続ければ重々しい音と共に何かがズレだす音。
しかも連続で。

「ぐ、ぎ、ぎぎ……だりゃぁぁ!!」
ひときわ強く引っ張れば、それはギュポンと良い音をたてて男の手前にドサリと落っこちた。
……大きな大きな鉄の蓋のようだ。

「くぅぅ、相変わらずクソ重てぇ蓋だな……」
文句云々垂らしつつ、男は持ってきた竿に餌をつけずにそのまま湖の中へ垂らす。
不精からの無餌か、と思いがちだがそうではない。

「……お、あった! ぐっ!!!」
竿から垂れる糸の先、釣り針がひっかけたのは魚ではない。
男は竿を引っ張り上げて針先についているモノを引っ張る。
……針先にはまた縄と目印と思われる赤い浮きがついていた。

「ぐ、ぐぐぐ……」
ズズズ、と引っ張る縄は大変重い。
引っ張り上げた縄が男の手から地面に落ちるころにはカチカチに凍っていたが、それを抜きにしても重い。
暫しの時間引き上げに専念すれば、見えてきたのは銀色の光。

「お、大量じゃないか♪」
置網漁、彼がしている漁はまさにそれ。
仕掛けた網が全部出ると辺りにピチピチ跳ねる魚、魚、魚。
大量であった。

「よぉし、後はまとめて……」
彼は懐から包みを取り出して、凍り始めた魚たちを順次詰め込み始めた。
雑な言動からは考えられないほどに丁寧な梱包で。
両手に抱えられない量があっという間に布の中。

「さて、帰ろうか」
よっこいしょ、と袋を担いだその時の事。



「ちょっと!! それはアタシの獲物よ!!」



帰路へ顔を向けた矢先、男は声からして女性に声を掛けられた。
嫌な意味で。
早く帰りたかった男は不機嫌な顔で振り返る。

「ねぇ、その背に背負っているの! それはアタシが海中で纏めておいたの!」
「……えっ」
情けない声、間抜けな裏返った声を出して男は止まってしまう。



おっぱい。



「ねぇ聞いてる? ……っ!? ど、どこ見てるのよっ!!」
男の充血した眼の行方を感じ取ったのか、そのブラらしきモノからこぼれそうなおっぱいをサッと体を捻り男からかくしてしまった。
鼻から愛が溢れる男が賢者タイムによって冷静に観察してみれば、女はどうやら人間ではない。

「ふむぅん」
「……な、なによ?」
海豹の皮、というより毛皮を剥いでそのまま着ているような感じである。
しかし足先に行けば人魚のようなヒレ、手は厚い手袋。
如何にも気が強い、と言うような三白眼の碧眼。
雪とはまた違う輝きの金髪はヌレヌレだ。

「……むふん」
「な、だ、だからさっきからドコ見てるのよっ!?」
さらにグッ、とくびれた腹におっぱい。
形のいいお椀型のでかぱい。
間違いなく浮き袋である、と男は確信した。

「え、あぁ、すまん。オッパイさん」
「誰がおっぱいよ!! アタシはセルキイよっっ!!!」
なんと彼女はセルキイだった!

「セルキィ、というと海の魔物さん?」
「え、知ってるの? ……そう、海の魔物ですが?」
ドヤッ、と胸を張って背を反らす彼女。
……男はただ静かに彼女のブラらしきものから外れたサーモンピンクの輪っかと突起を凝視するだけだ。

「っ!! また……ッッ!!」
「あぁ、失敬。なにぶん、女日照りなもので」
全く悪びるそぶりもない、建前だけの謝罪に女の方は苛立ちを隠せなかったようだ。

「ちょ、ちょっと! 謝る気あるの!?」
「ない」
「っ〜〜!!」
感極まったのか彼女は一足とびで彼に飛びかかろうとした。
しかし避けられた。
……しかも下半身の腰に運悪く彼の手袋が引っかかって、下半身がもげた。

「あ、わ、わりぃ!」
「あ、ぅぅ、ぅあ……」
腰から下が人間女性のまさにソレとなった彼女。
男は視覚を最大限に使い脳内に永久保存しつつ、
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33