「…はぁ」
「ん? どうしたのさ? ため息なんかついて?」
ある晴れた昼下がり。
リビングにてコーヒーを啜りながら頬杖ついてため息を吐く男性はその寝ぼけ眼の視線を外へ向けており、そこでは鼻歌を歌いながら真っ白に洗いあがったシーツをパンパンと叩きのばして物干しざおにひっかけていく女性がいた。
ただこの女性…男の声に反応して振り返ったその手元、洗濯物をつかんでいる手を見れば鶏の足のような形状で…腕をみればまさに鳥の翼。
そしてハート形の白レースが付いたエプロンの下から見える足もやはり鳥の足そのものである。
実は彼女、人間ではなくてハーピーという魔物なのだ。
「…んー? いやさ、我が家の月一名物を食した後にいうのもなんだけど」
「私の無精卵? え、えっと…不味かった…?」
「いや、美味い。 ただ…さ、もしかしたら僕らの子供かも知れないと思うと…」
コーヒーが残ったカップをことり、と置いたその脇にはスクランブルエッグ、出し巻き卵、オムライスとやたら多い卵料理が…
それもそのはずで、彼女らハーピーは人間女性の生理と同じように受精しなかった卵を(個々によって違うらしいが…)月に一度排卵するのだ。
今日は偶々その日に当たったようで卵尽くし、というわけである。
「大丈夫だって! 私たちの体はそこらへん敏感だから妊娠すればすぐ反応する、って前にも言ったじゃん! 」
「いやぁ…そういわれても…ちょっと抵抗が…」
「もぅ。 それで、卵以外に気になることがあるんでしょ? 何々?」
パンッと小気味よい音を立て最後の洗濯物を干し終えた彼女。
彼の元へ籠を抱えて彼女が小走りすると、フローリングの床がカキカキと音を立ててちょっとした抗議をしているように聞こえる。
相変わらず眠そうな顔の彼はもう一度コーヒーを啜ってちょうど目の前に座った妻を見据え、視線を外さずにこういったのだ。
「…一緒に生活して10年経つけど未だに【ちっぱい】な ?」
「やかましぃ !! 真剣な顔して何言うかと思えば… 」
彼の冒涜的とも言える言葉に彼女は穏やかだった顔を一転させ、頬を膨らませて怒り心頭。
バッサバッサと翼もはためかせるものだから、その時抜けた羽根が辺りへと散らばってしまう。
…が、彼らにとっては【いつもの事】の様で綺麗に朝食が乗ったテーブルに羽根が載らないよう彼がガードしている。
「いやぁ…」
「っ! こ、これは種族上【ちっぱい】じゃないと空気抵抗がデカくなって上手く飛べなくなるから…っっ!」
「でも隣のカラステング夫妻の奥さん…でかいよね?」
彼の話に上がった隣人夫婦はつい最近引っ越してきたばかりで、ジパングから態々大陸のこの場所まで来たらしい。
そして同じハーピー種ということで挨拶にやってきた時、ものの数時間で家族ぐるみで密接な関係になったのだ。
そしてそのカラステングの奥さんというのがハーピーにしてはとても胸が大きく、妊娠していない時でもメロンほど…妊娠するとスイカ並みになって凄い、とはカラステングの夫談。
「ぅぐ?! 」
「それにさ? 十年ずっと揉ませてもらっているけど…そのぉ…な?」
「や、やめてよぉ! その憐みの目、やめてよぉぉぉ!!!」
怯んだ彼女へ追い打ちをかけるように、彼はテーブルの上へ態々手を置いて何かをつかむモーションをかけたのちに彼女へと視線を移す。
…しかし無表情で。
そんな彼の行動は彼女にとって【こうかはばつぐんだ!!】であり、呆けていた顔がみるみる赤くなっていき目には涙が溜まりだす。
更には居た堪れなくなったのか翼をバサッとその場で何度も上下させ、しかしそれもある程度すれば力なく床面に翼を垂らして顔を伏せってしまった。
そんな彼女は上目使いで彼を見ながら、先ほどの荒々しい声色から打って変わって沈んでしまった声で彼に問いてみた。
「…そんなにちっちゃいのは…おっぱい小さいのは…いや?」
「いんや、君だからいい。君のだったらどんなサイズでも好きだよ?」
その言葉を聞いた彼女の顔は目を輪っかにしてポカーン…としている。
…対して彼は悪戯が成功したかのようなドヤ顔になっているが。
「…へ? あ、あれ? 私の胸が小さいから失望していたんじゃないの!?!?」
「違う違う。遠まわしに妊娠しないね、って言ったの。」
「……〜〜〜っっ!!」
一気に顔の温度が上がってわたわたとしだす彼女に彼はニタついた笑顔に白い歯を見せつけ面白がって見ているようで、それに気づいた彼女がハッとした顔で元に戻ると…
「ま、まぎらわしぃよぅ!」
「あっははは!」
「むぅぅぅ〜〜っっ!! きょ、今日はッ! じゅ、受精するまで…は、離さないんだからっっっ!!!」
「…え……」
…しばし時間が止まった。
家の外では相変わらず小鳥たちの囁きがそこらかしこで聞こ
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