「わ、わわっ!?」
「あっはは! どうしたの? まだ初速だよ? ウフフッ♪」
空に真ん丸のお月様が出てしばらくの暗闇を、そのお月様の眼前をあられもない速度で通過する影が一筋。
傍目から観察してみればきっと子供二人が箒に跨っているように見えると思う。
でも…跨っている一人、私がシルエット越しにわかるほど特徴的な服を着ているので魔女ってことがもろバレであろうということ。
「よぅし…≪Vr(ブィアール)≫っ!」
「えぇっ!? あっがぁっっ……」
サバトの時間まで刻一刻と迫る中、さらに加速した箒の上で私に必死になってしがみ付くのはまだ私よりも背が小さな大事な大事な…男の子。
風圧で若干仰け反った、かと思ったらより強く密着してのかすぐに元へと戻りより密着してくる様はとても微笑ましい♪
少し進路を曲げたこととその加速の一瞬で私たちの姿が地上にいる人たちに見えたことでしょう。眩しすぎる月光により色がついた私たちを。
バフォ様から貰った魔女特有の三角帽、先輩魔女から譲ってもらった魔導師ご用達のコート、ニンゲンだった頃からの愛用品で白が基調のフレアスカート、後ろでしがみ付いているオゼが好きと言ってくれた膝まであるなめし皮で作ったシンプルなデザインのロングブーツ。
…まさに魔女そのものの装備であるが使われている布の大半がコバルトブルーなのはサバトの差別化の一端よ♪
「ほらほらぁ! しっかり掴まって♪」
「あばばば…ぐぅ…っっ!」
早めに時間をとったはずなのに急がなければならなくなった原因を作ったオゼにちょっとした悪戯をしたくなっちゃった♪
進路を直線でとっていた…ところをっ!
いきなり箒の先をぐぃっと上にあげてそのまま一回転するループ・ザ・ループ(縦旋回)、続いて進む方向をそのままにまるでドリルのように回転するバレル・ロール(進行方向に対しての横転旋回)、進行方向そのままでの機首上げにより地面と垂直になったまま飛び続けしばらくして戻すコブラ(機首を直角状態にしてすぐに水平に戻す機動)…などなど。
先輩たちの技術を盗み、アレンジし、更にはそれらを高速巡航速度で行えるように曲芸を芸術まで昇華させた私に死角はないのよっ!
「う、うぇっぷ…お゛、お゛ね゛ぇ゛ぢゃ゛ん゛…」
「あ。 …ゴメン♪」
一人テンション高めに曲芸飛行という名の【オ・シ・オ・キ♪】をし続けていると後ろから濁音交じりのオゼの声が…何とか口を塞ぐ様は見ているこちら側も催しそうになる。
ちょっとオゼにやり過ぎた感がある私は曲芸を辞めて本来の軌道へと戻して通常運転に戻り振り向いて後ろのオゼに片目ウィンクで謝ることにしたわ。
「う゛…い、急がないの…?」
「…あぁっ!? そうだったぁぁぁ!!! ゴメンっ! ≪V2(ブィツー)≫っ!!」
「う゛ぅぅ…ぁ…ぁぁ…」
おっと!! ちょ〜っと遊び過ぎた…胸ポケットの懐中時計の蓋を開ければ黒ミサまでの時間が残り五分を切っていたのっ!
ほんの僅かな低速運転を瞬時に最高速まで速度を跳ね上げると同時に私が屈んだ…瞬間。
ーー景色が【風景】から【線】になって私たちの後方へ流れ出す。
箒は魔法行使による煌びやかな軌跡を出しながら最初の頃の三倍近い速度で雲を払い除けて飛び始めると…オゼは声にならない悲鳴とともに拘束具の如く私をしっかり抱きとめたのっ…♪
「…」
「…オゼ? あらら、気絶しちゃったかなぁ?」
うふふ♪ 毎回箒に乗ると面白い反応してくれるからつい調子にのっちゃうじゃない♪
…そういえばもうすぐオゼと家族になって二年、か。
…私が10歳、オゼが8歳。
…月日の流れは早いものねぇ…っと!?まだ私はお婆ちゃんじゃないよ、っと♪
でも思い出すなぁ…オゼがあの一生遊び人の私の父親、その再婚相手の連れ子としてやってきた時を。
じゃなかったらきっと私はまだあの黴と湿気が充満した閉鎖地区、≪教会の大図書館≫に閉じ込められていたと思う。
…うん間違いなく。
私は幼い頃から(…といっても記憶があいまいだけど)魔術の才能があったらしい。
その才能に目を付けた教会のエラい人(名前は…わすれた)が高額な援助をして私のことを親元から離れさせ大図書館にて魔術学漬けにさせられた。
…まだ自我がなかった私はただ出された本を読みこんでその通りに術を発動させるだけで周りが歓喜の声を上げるのにさほど興味はなかったのよね。
そして数年後にはエラい人が「君自身で魔法を考えてくれないか?」とか無理難題を吹っかけてきたのよね…まぁこのころの私は褒められて嬉しかったし、これが何に使われているかもわからなかったけどね。
そんな私は次々と魔法を編み出しては本に書くという終わりのない作業をし続ける内に(というより今の今まで真面に人と接した事なんて無かったから)コミュニケーション
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