『あなたと歩く♪』

「はぁ…なんだかなぁ…妖狐になったからって別段生活変わった訳じゃないんだよねぇ…人間だったのが嘘のようだよ…」
まだまだ肌寒い初春の日。
川原の土手を歩く制服姿の妖狐が一人。
カバンを後ろ手にして足をヒョイヒョイ投げ出すように歩いている。

「孤児院から引き取られて…初日で狐火ちゃんに絡まれて…上の空でふらついたら梨花ママとダンパパの寝室前に行って…翌朝のフワフワした気持ちから帰ってきたら…耳と三尾の尻尾が出てきて妖狐化してたし…」
…散々な目にあっているようだね。

「でも…接する態度が変わらなくて嬉しかったなぁ…♪」
フワリと一揺れする三尾は川原からの風で更に毛が波立つ。
その寒さにブルッと一瞬震えるとカバンを持ち直し胸の前で腕を組んで両肘をいたわるように擦る。

「うぅ!? ま、まだ寒いなぁ…」
と耳まで下げて制服の上にカバンから取り出したカーデガンを羽織った瞬間…。


フワッ


「よっ! 尻尾がフカフカなのに寒そうだな?」
「ぅぇ…あ、ありがとう…」
カーデガンを羽織ったのとほぼ同時に首に何かを巻かれて吃驚して耳と尻尾が直立するもその後から来たいつもの聞きなれた声によって彼女の張られた緊張の意図はゆっくりと緩んでいく。
そして彼女の右から現れたその人に彼女は寒さで悴んだ表情をまるで氷をそうするかのように緩やかに温かみのある微笑みへと変えると彼に向かって挨拶をする。
勿論、首に巻かれた布の礼もするのを忘れない。
…彼が元々つけていた物のようで嗅覚の鋭い彼女には造作も無いことであった。

まだ仄かにに暖かいそれをちゃんと巻きなおして。

「…なんだよ? そんなに顔をにやけさせて?」
「うぅん、なんでもないよ♪」
(思えば…君と会ったことで妖狐に為った迷いが吹っ切れたんだよねぇ…♪)
二人は土手を歩きながら話しているが余りにも顔が緩みすぎたのか彼が片眉を上げて彼女の顔を覗き込みながら言うと彼女はプイッ、とニコニコ顔のまま横へ顔を逸らして彼の凝視の視線から逃れた。
…耳と尻尾は正直に揺れて。

「…んぅ…んで? さっきまで何を話していたんだ? 」
「うぇっ!? き、聞こえていたの!?」
「ん〜?? カマかけただけだけど? はは、可笑しいなぁ〜♪」
「も、もぅ! ばかぁ! 半年前からそうやってぇ…っっ! 待てぇ!」
彼女に顔を逸らされた彼は正面に向き直ると何かを思い出したかのような顔になると彼女へ再び向き直り問いかけをするし彼女のほうは耳をピンとさせて彼のほうへ逸らしていた顔をグルンと向けて目を見開いた表情で固まってしまう。
…尻尾は激しく揺れている。

だが彼はニカッ、と笑って彼女のその反応を楽しんだようでカバンを肩の後ろへ持ち直してハハハと笑いながら歩を進めてしまう。
一拍遅れで彼女がハッと気付くと顔を真っ赤にして色々なものをぶるんぶるんと揺らして彼に向かって走り出していくと彼も「ここまでおいでぇ〜♪」と走り出す。

ちなみに今は登校時間である。
ケンタウロスの女生徒の上に腰掛けて共に登校するもの、手をつないで登校しているドッペルゲンガーの学生カップル、それらを見ている男子生徒と女生徒。
このように周りにも多くの人魔混合の学生が歩いているわけだが一部の羨望の視線を除いて皆その彼と彼女とのやり取りを見て微笑みを送っていたのは余談である。

そしてあっという間に時間が過ぎて放課後のこと。
彼女は部活に入っていないのでそのまま帰宅するために準備をしていたが不意に空が暗くなってきたのを感じ取り彼女は少し困り顔であった。

「…ヤバ、傘持ってきてないんだよね…走って帰れば間に合うか…」
彼女の決断は早かった。
教室を出て昇降口で靴を履き替えるとすぐに彼女は走り出すがものの数秒で空からそんな彼女を小馬鹿にするようにポツポツと雨が降り出すとソレはすぐにバケツをひっくり返したかのようなとんでもない大雨になる。

「あぁぁ! なんでよぉぉ!!…あ、あそこで雨宿りしようっ!!」
その空の余りの仕打ちに彼女は悔しさを存分に含んだことを人も憚らずに叫ぶと思っていたことまで口にしてちょうど土手の手前にあるバス停の待合所があり彼女はそのまま走りこむようにしてその待合所に到着する。
数分待っても晴れない雨に鬱に為りながら髪と耳と尻尾を拭いて時を過ごすと同じ学校の生徒か目の前からやってくる影があった。
その影もやはり予想だにしない雨脚にカバンを横にして雨よけにしている。

「…ふぅ」
「あれ?」
「ん? …あれ?」
そのまま影は彼女が雨宿りする待合所へ先の彼女のように滑り込むと一息つく。
彼女は「皆同じだなぁ…」とちょうど吹き終わったタオルを今度は制服の水分を取るために当てていたがその入ってきた影に、そして影のほうも彼女に対して呆け顔で見つめ合ってし
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